第5話 時間停止系主人公くん 後編
「ッ……!」
赤信号だと言われ、直前まで迫っていたトラックの存在に気がつき、俺は咄嗟に身を庇った。
だが、いつまで経っても俺の体には衝撃が訪れない。
撥ねられれば、まず命はないであろう猛スピードのトラックアタックが、俺の体を襲ってこない。
「……っ?」
うっすらと目を開けてみる。
俺が座り込んでいたのは、横断歩道のボタンがある場所。
車が絶対にこない安全圏。道路の直前。
飛び出したはずの俺は、なぜか元の場所に戻っていた。
【──あぁ、よかった。間に合った】
「いてっ」
コツン、と頭にぶつかる吹き出し。
思わずそれを拾い上げ、立ち上がって周囲を見回すと、少し遠くに吹き出しを出しながら歩く少年の後ろ姿が見えた。
──まさかとは思うが、時間を停止して俺を助けてくれたのか?
【この力を、自分以外のために使ったのは初めてだ】
【神様がオレにこんな特別な力を与えてくれた、その本当の意味を……ようやく理解できた気がする】
【けど、オレは彼女に手を出そうとした。それは変えようのない事実だ。こうして助けたことで我に返ったが、このままじゃいずれオレはまた誰かを襲おうとしてしまうかもしれない】
【踏みとどまれてよかった。
また他人を傷つけてしまう前に、ヒトのいない場所で命を絶とう。
それがオレにできる、唯一の贖罪──】
「あの、ちょっと待って」
急いで彼のもとへ駆け寄る。
そして声をかけると同時に、主人公くんの手を後ろから掴むことで、彼をその場に引き留めた。
「……時間止めて、移動させてくれたんでしょ」
正直に言えば、抜きゲーの主人公なんかとは関わりたくないし、それが時間停止や透明化などを使う、クソ無法なチート野郎ならなおさらだ。
こんなことをされなければ、自殺だって引き留めようとしなかったかもしれない。
……まぁ、でも今回は命の恩人だし。
この後死ぬ死なないは置いといても、人としてお礼くらいは言っとかないと自分自身が納得できないというものだ。
礼を言ったらすぐ逃げよう。
何かされたわけではないが、調子に乗って襲われたらたまったもんじゃないからな。
「……助けてくれて、ありがとう」
【────っ】
「いだっ!」
ぎゃあ! 吹き出しに殴られた! いたい!
もうやだ知らん。
こんの鬼畜主人公いい加減にしろバカ野郎が。
さようなら、永遠に。
「そ、それじゃ」
「……まっ──」
よっしゃ逃げろ、退散退散。
◆
【誰かに礼を言われたのは、一体いつぶりだっただろうか】
【わからないけど、もう少しだけ、ほんの少しだけ生きてみても、いいかもしれないと、そう思えてしまった。
今度は復讐鬼としてではなく。
この力を、誰かの為に。】
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