チエコ先生とキクちゃんの水平思考クイズ【41】ミッシングリンク【なずみのホラー便 第129弾】

なずみ智子

ミッシングリンク

【問題】


 日本国内のある地方都市にて、短期間に8件もの殺人事件が連続して発生しました。

 殺害方法はいずれも非常に陰惨であり、犯人は被害者たちに何らかの恨みを抱いていたとしか思えないものでした。

 犠牲となった8人の被害者の性別は男女半数で、年齢は20代後半から40代前半にわたっていました。

 被害者たちは全員とも身辺に命を狙われるほどのトラブルを抱えてはおらず、前科なども一切なく、皆、普通に暮らしていた一般人でした。

 そして、8人の被害者たちには直接の接点は何もありませんでした。

 強いて接点をあげるとしたなら、”同じ時代に生を受け、同じ国の同じ都市で暮らしていた”だけであるでしょう。

 これは無差別殺人だと誰しもが思っていたに違いありません。


 しかし、程なくして20代の男が「連続殺人の犯人は俺だ」と自首してきました。

 男は言いました。

「あいつら8人は許されぬ罪を犯した。俺はそれを思い出した。だから俺の苦痛を、恐怖を、絶望を……俺があいつらから受けたことの全てを思い知らせてやりたかった。8人もやったから死刑は確実だろうが、後悔は一切していない。前にやられたから、今回はやり返した。それだけのことだ」


 男の言ったことは紛れもない事実でした。

 ですが、その事実を証明することはできません。

 男の記憶による供述のみで、物的証拠はもう何一つ残っていないのですから。

 さて、8人の被害者たちはいったい”いつ”、男に惨殺されるほどの恨みを買ったのでしょうか?




【質問と解答】


チエコ先生 : 今回の問題だけど、理由はどうあれ殺人を肯定するものではないということを先にお伝えしておくわね。さて、キクちゃんは今回の問題で何が最初にひっかかる? 少し問題文中にヒントを出し過ぎたかしらね?


キクちゃん : 犯人の男が8人の被害者たちに過去に酷い目に遭わされたことは事実なのですよね。でも、「8人の被害者たちには直接の接点は何もありませんでした」とあります。直接の接点は無くとも、ネット上では接点があったのですか?


チエコ先生 : NO。でも、その質問は今の時代だからこその質問ね。仮にネット上で誹謗中傷を受けていたとしても、被害者側だって証拠を集めておくことはできるし、開示請求もできるのよ。だから「男の記憶による供述のみで、物的証拠はもう何一つ残っていません」といった事態にはならないわ。


キクちゃん : 「男の記憶による供述のみ」ですか……その男の供述の中に、被害者たちの”見えない繋がり”、すなわち「ミッシングリンク」が存在すると…………視点を変えて質問します。8人の被害者たちの中に、自分が過去に犯人の男に対し「許されぬ罪を犯した」ことを悔いている人はいましたか?


チエコ先生 : NO。誰一人として悔いてはいない……そもそも”そのこと”を思い出すこともなかった、というよりも思い出せなかったのよ。それぞれの最期の時に至ってもね。


キクちゃん : 最期の時に至ってでさえ、思い出せなかったのと!? これはもう単なる一方的な逆恨みによる猟奇殺人としか思えないのですが……でも、問題文をもう一度読むと、犯人の男自身も長期間にわたってずっと恨みを募らせ続けていたというわけではなく、「俺はそれを思い出した。」と供述していますね。なんだか、急に記憶が蘇ってきたみたいな……。


チエコ先生 : そうよ、その調子よ。もう一度、問題文を……特に犯人の男の供述を読み返してみて。


キクちゃん : 気になるのは「前にやられたから、今回はやり返した。」という一文ですね。これは「前に殺されたから、今回は殺し返した。」ということでしょうか? けれども、犯人の男は生きているわけですから、事実だとしたら矛盾していますね。急に蘇ってきた記憶といい、今の人生でのことを言っているわけではないような…………あ! まさか、前世でしょうか? 8人の被害者たちは、その前世において犯人の男を殺害した加害者だったのですか?


チエコ先生 : YES。正解よ。前世の被害者たちは、前世の犯人の男を8人もで取り囲み、拷問を加えて嬲り殺していたのよ。そのことは確かに事実ではあったのだけど、とっくに歴史の闇へと飲み込まれていった後で、同じ時代に生きていた人たちだって誰一人としてもう生きてはいないし、物的証拠も残っているはずがない。犯人の男が思い出した前世でのことは、誰も証明の仕様がない”ミッシングリンク”ね。


キクちゃん : 犯人の男が前世で被害者たちに虐殺されたことは事実でも、今世は普通に暮らしていた被害者たちがその罪を問われても何のことだか全く分からなかったでしょうし、苦痛と恐怖、絶望の中で今世を終えさえれるなんて無念だったでしょう。そもそも魂は同じであっても前世の自分とは全くの別人となって転生していたわけですし。人間の力の及ばない領域のことは分かりませんが、これってまた新たな因果が生じさせていないでしょうか? 殺し殺されるを繰り返して、決して断ち切れることのない憎しみの輪廻を。



(完)

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