砂漠と竜、そしてそこに生きる人々

かつて『アラビアのロレンス』が大好きだった私にとって、この世界は浪漫がいっぱいに詰まったものだった。
もちろん異世界の御話なので、現実とは違う。
だけど手の中を落ちていく砂の感触や、乾ききった風の痛みを精緻な文章が伝えてくれる。
島国に住む私には、リアルにそんなものを感じた体験はないというのに。

キャラクターの多彩であることも、魅力だ。
それぞれのキャラに背景や心に思うことがある。
幼いファイサル少年が『俺は守る側だ』と、心折れて倒れ込みそうになりながらも宣言した時に、それを芯として立ち上がろうとする姿に、心が震えた。
誇りのなんたるかを、意味も分からぬのだろう幼さなのに知っていること、それへ心を動かされた。
臆病、と言われる主人公にしてもそうだ。
二人で泣こう、と言った彼女はその時にちゃんと覚悟をしている。

あまりにネタバレになってもいけないので、ここまでにしておきますが。
楽しいばかりの御話ではないとは思います。
でも、だからこそのリアルな世界の残酷さすらも、乗り越えていく強さを語る物語です。

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