後 編
「パン
周囲の同胞は喜びに満ちて、エビータとマイケルだけが顔を歪ませた。
「誰? 誰なの?」
「猫なの?」
マイケルは突然犯人呼ばわりされて、しっぽをおったてて反論する。
「俺じゃねえ! 俺はオメーラは嫌いだけど、パン粉なんて盗んでいないぞ!!」
「じゃあ、誰なの? まさか……」
みんなの視線が、エビータに行く。
すると、エビータの顔はみるみると青ざめて、
「ち、違う。違うわ。私は違う……! 私は【見ただけ】よ!!」
「何を?」
「それは……」
と、口ごもるエビータの代わりに私が言った。
「手だよね?」
『手?』
「ええ、あの騒動の時、エビータはパン粉を取って行く【手】を見たのですよね?」
みんなの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
「じゃあ……母親って事?」
「それも違う。……私は大きな勘違いしていたんだ。【真犯人はずっとここに居たんだ!】」
「それって、どういう……」
同胞がそう言いかけた時、ガチャリとリビングの扉が開いた。そこには小太りの中年……この家の父親が、ヨレたTシャツと短パンというラフな格好で立っていた。
「ママ~。お菓子と間違えて持って行っちゃった~」
と、その片手にはパン粉が持たれていた。
『あっ!!!!』
「ええっ!? パパがパン粉持って行っちゃったの? もう、びっくりしちゃったじゃないのよ~!!」
「ごめんごめん。キッチン台にあったから、お菓子だと思って~。本物のポテトチップスはどこ~?」
「もう! 在宅ワークになって太るから、お昼ご飯もお菓子も食べないって言っていたじゃないの! 私がエビ探しに慌てている時にこっそり持って行くなんて……、そんな
と、パン粉を荒々しく奪い取る母親。
情けなさそうに頭を掻いて笑う父親。
ポカンとするマイケルと我々。
そして、みんなは私を見た。
「――そうです。犯人は④それ以外で父親です。彼は外出したと思いきや、在宅ワークでずっと二階の自室に居たんです。在宅ワークならば外出する素振りも無く、いつの間にか居なくなってたのも頷けます。そして無理なダイエットで空腹のあまり、お菓子を貰いに来たが、何を勘違いしたのか、パン粉を持って行ってしまったのです」
「そんな馬鹿な!」
「そんな馬鹿げた出来事が真実なのです」
すると、話の一部始終を聞き終えたマイケルが喉をゴクリと鳴らして「おい」と私に声を掛けてきた。
「……お前、やるな!! ひょろひょろ野郎とか言って、馬鹿にして悪かった。お前は凄い。最高のシュリンプで最高の甲殻類だ。……俺に、名前を教えてくれるかい?」
「車エビ男だ」
「車エビ男か……。良い名前だ。俺はエビは嫌いだが、お前の事は、ずっと忘れないからな!」
「……ありがとう!」
熱い友情が生まれ、とても良いムードだったのに、またしても父親が余計な事をしてくれる。
私を持ち上げたのだ。
「ところでママ〜? こんな小さい甘エビでエビフライなの?」
「そうよ~! パン粉で衣を増やして大きくするんだから! いつか大きな車海老のエビフライが食べたいわね~」
「…………」
マイケルが私の真実を知り、黙り込む。
い、良いじゃないか!
どんな名前を名乗ったって!
甘エビの私にとって憧れだったんだよ、車海老は!
来世は絶対に、車海老だっ!!!!
――こうして、一波乱あったが我々は母親の素晴らしいテクニックで、車海老と変わりない大きさのエビフライとなり、食卓に並んだのだった。
大皿にプチトマトと並んだエビータは、自分の姿をプチトマトに映し出し「意外とエビフライも良いわね」と衣をまとった姿にウットリとしていた。
部活帰りのお腹をペコペコに減らした息子達も帰宅し、真実を知らない無邪気な彼らは「おお! でかいエビフライ!」と喜んでいる。
マイケルもスーパーコミットで我らと共に購入していたサーモンを貰って大満足の顔をしていた。
(……人間よりも猫の方が単価高くないか?)
まあ、何はともあれ――、
無事解決し、皆さんも揃った所で、
『いただきま〜す!!』
サクッ。ジュワ。プリッ。
『う〜ん、エビ美味しい!』
――ありがとう。
それは我が人生最高の褒め言葉だ。
エビ探偵・車エビ男のフライなる事件簿 さくらみお @Yukimidaihuku
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