第三話
小鳥の姿のルリを肩に乗せたまま家に帰る。キッチンで水を飲んでから、リビングでテレビを見ていたお母さんにあいさつをして、二階に上がる。
ムシはされないけど、あいさつ以外の会話がない。さびしいという感情はある。だけど、何を話せばいいかわからないし、家族でも、長く同じ空間にいるのは苦しくなるから、これでいいのかもしれない。
あたしが長く共にいて、一緒に寝ても大丈夫なのはルリだけだ。まあ、彼の中身は猛獣のようなものだから、寝てる間に食べられたらどうしようって思う時もあるけど。
自分の部屋に入り電気をつけると、ルリがパタパタとベッドまで飛んでいく。彼はあたしの匂いが染みついたベッドで寝るのが好きだと前に教えてくれた。
その時はビックリしたし、ショックだったけど、好きな相手だし、彼が寝る時は小鳥だし、まあいいかと思うことにした。
セーラー服から私服に着がえて、学校の宿題をした後、眠るルリをながめてたら、お母さんが「ご飯よ」と呼びに来た。
そっと立ち上がり、ドアの近くで「はい」と短く返事をする。
ベッドを見るとルリはまだ寝てた。おどろかすと不機嫌になって出て行くこともあるので、彼が休んでいる時や寝起きは大きな音を立てたり、大声でしゃべらないように気をつけてる。
キッチンに行き、お母さんと二人で食事をする。会話のほとんどない夕食が終わると二階に戻り、まだ寝ているルリを見て安心した。
パジャマなどの準備をして階段を下り、急いでお風呂に入り、部屋に戻る。
まだ眠ってるルリを見てホッとした次の瞬間、彼が起きたのでドキッとした。彼のクチバシが動く。
「匂いが濃いな。旨そうだ」
「お風呂に入ったからね」
ドキドキしながら冷静に伝える。感情的になってはダメだ。熱いのはお風呂のせい。
「ココア」
「すぐに淹れるね。チョコもいる?」
「持ってこい」
「うん」
あたしは部屋を出て、キッチンでココアとチョコを用意してから、二階に上がる。
自分の部屋のドアを開けると、姿を変えたルリが、あたしのベッドに座ってた。
彼の姿を認識した瞬間、カッと顔が熱くなり、胸の鼓動が高鳴る。
見た目年齢は大学生ぐらい。
肩の辺りで切りそろえられたルリ色の髪。蜂蜜色の
何度も見てるのにドキドキがとまらない。
落ち着いてっ!
自分に命じた後、お盆を勉強机に置いて、部屋のドアを閉める。
「その姿でそこに座らないでって何度も言ってるのに……」
できるだけ小さな声で不満を口にしながら、お盆から温かいココアが入ったマグカップを取り、ルリに差し出す。
ムッとした表情のルリが薄紅色の唇をとがらせ、「同じだろ」と言ってから、マグカップを受け取った。
「違うし」
鳥と人では違うのだ。翼があっても人に見えるのだからドキドキする。
この姿を初めて見たのは寒い時期だった。あたしがココアを飲んでたら、『飲ませろ』ってルリの声がしたんだ。えっ? って思いながら振り返ると、人化したルリがいて、『ええっー!?』って大声を上げてしまった。
小説とかでもこういうのはあるから頭では理解できたけど、心が追いつかなくて逃げてしまった。トイレに行き、心を落ち着かせてから戻ったら、ココアを飲まれてしまった後だった。それから彼は、ココアやチョコを口にする時に人化する。
マグカップに口をつけ、コクコク飲んだルリは艶やかに微笑む。
ウウッ! ココアが好きなんだからぁ! ドキドキするよぉ!
内心、もだえていると、ルリが顔を上げて口を開いた。
「チョコ」
「ちょっと待ってね」
いそいそと机に向かい、小皿に載ったチョコを持ってルリに近づく。彼はうっとりした表情でチョコを食べた。
ハァー。好き。
いつまでもご機嫌な彼を見ていたい。そう思うのにルリは小鳥に戻ってしまって、そして寝た。
さびしい。だけど相手は鳥なのだ。
本当はなでたいけど、寝ている時に触ると怒られるので、あたしは静かに読書した。
完
ルリ 桜庭ミオ @sakuranoiro
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