最終話

 今日の耀司はまた、四時五十分を過ぎてから現れた。それでも三日連続の登校は、本当に久しぶりだ。


「ほらね、がんばれる子だって言ったでしょ」

「小夜ちゃん、甘くね? ほかのやつらは毎日、全部出てんじゃん」

 耀司は英単語を書きながら、これまでにないことを言った。そういうことが、口に出せるようになったのか。

「神原くんも卒業までにそうなれたらいいなとは思うけど、なれなくても、まあ別に」

「いいのかよ」

 すぐ言い返した耀司に笑う。

「理想なのは確かだけどね。でも私は、神原くんを苦しめるためにここにいるわけじゃないから」

 教師として学ばなければならないことはまだたくさんあるが、そこだけは揺るがない。

 耀司は少し驚いたように私を見つめたあと、また英単語を書き始める。

「……俺、もうちょっとがんばるわ」

 やがて聞こえたぎこちない決意に、うなずいた。



                              (終)

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二年三組の鬼 魚崎 依知子 @uosakiichiko

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