終話 財宝

 警察に送られていく棺さんを見送ってつくづく思った。富は人間を狂わせる。権威は人間を狂信的にしてしまう。義人はいない、と言う言葉がよく押しかかる一件だった。


「埋蔵金なんてろくなものじゃないな」


 僕がそう言うと英子さんは語った。


「ええ、埋蔵金ならね」

「どういう意味ですか?」

「それはすぐに判りますよ」


 あの事件を経て僕は今日説教することになった。

 事前の準備の為、講壇に立って聖書に眼を通す。

「ぁ」

 誰にも聴こえない感嘆の声がつい漏れた。そう言うことか。英子さんが言っていたことが判った。埋蔵金なんてものは幻想かも知れない。

 唯、財宝はある。成程、これは手強い財宝だ。先代はどうやってこの財宝を解き明かしていたのだろう?

 謎に包まれたこの教会の歴史に僕は漸く一歩踏み出した。


                       ―了―

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

探偵牧師物語 その壱 佐藤子冬 @satou-sitou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ