秋比古くんの言うこともわかるが……

  • ★★★ Excellent!!!

 ちょっとミステリに対する考え古くないかな?
米澤穂信が直木賞取ってるこの時代に、「殺人事件やおどろおどろしい舞台設定も何もないミステリなんか誰が喜ぶんだ」はさすがに……。横溝正史まで遡れとでも言うのか。


「五分で読める文字数の中に魅力的な謎を込めるのは無理」とも言っているが、フーダニット、ホワイダニット、ハウダニットのどれか一つに的を絞って謎を提示すれば不可能ではないだろうし、実際応募作の中でも評価の高いものはそうしている。


 そもそも、「なんで5分で読書でミステリをやろうと思ったか」などと言ってるが、普段本を読まないであろう小学校高学年や中学生に読書の楽しみを教えようという企画なんだから、様々なジャンルを取り扱うのは当然だろう。まして娯楽小説の王道であるミステリが入るのは何もおかしくねぇべ? むしろそこを疑問を思う時点で、ミステリが不人気ジャンルであると自ら言ってるようなもんじゃね?


 さらに、「子供向けに配慮した陳腐な謎にミステリ風味の味付けをしたところで、『ミステリをつまらないジャンルだと思う読者』を量産するだけだ」とくるからね……。
よくある「ジャンルにとってマイナスになるからやめろ」論。こういう人はなぜかこういう事を言う時だけ現状を無視し、誰も余計なことをしなければ自然にそのジャンルが栄えていく前提で話をする。だが実際には、何もしないことのマイナスを上回る失敗などそうそうないので、何か新しいことをするたびに批判をするファンを抱えているジャンルは徐々に衰退していくのだ。


 そう、彼が「俺の方がにわかのお前よりもよっぽど純粋なミステリファンなんだよ」と言うに至って謎は全て解ける。
探偵を名乗るこの男こそが、ミステリというジャンルを衰退させる犯人なのだ。
「探偵自身が犯人であってはならない」というノックスの十戒を逆手に取り読者の虚を突いた手の込んだオチであると言えよう。



……こんな感じで、面倒くさいオタクを描写するディティールの細かさが秀逸な小説でした。