最終話 竜姫の護衛
「これでよし!」
手をパンパンと叩き、ステラが立ち上がる。
「どう?」
「あ……あぁ。いいんじゃないか? でも良いのか?」
「何が?」
「いや、自分の国じゃなくて……」
「ん~……たぶん?」
「たぶんって……」
顔を顰める俺にステラはカラカラと笑う。
相変わらず元気な姫様だ。
あの戦いから数日後。
俺たちは教会の近くにステラの護衛や街で行方不明になった人たち、それにラースさんの墓を作ることにした。
みんな、人狼に喰われてしまったから骨はもうないけれど、それでも彼らの遺品を墓に飾り、花を添えた。
彼らが安らかに眠れるように。
「まぁ大丈夫だよ。国に帰ったら、そういう手続きするから」
「……それでいいのか?」
「大丈夫大丈夫。ね、ウィー?」
「がう?」
同意を得ようと話しかけるが、ウィーは何の話かわからないのか首を傾げている。
「そういえば、ウィーは本当に俺のパートナーになったんだよな?」
「まだ疑ってるの?」
ステラがジト目で俺を見つめてくるが、俺は心配だ。
あの戦いで、確かに今までとは違う手ごたえがあった。
だけど、その後の数日、一緒に生活をしていても何一つ変わった様子がない。
ウィーが命令を聞く様子もないし、ウィーの意思が、あの戦いみたいに、伝わる様子も。
だけど、ステラは成功しているという。本当にそうなのか?
「はぁ。しょうがないね」
そうやってずっと疑った眼でウィーを見つめていると、ステラは大きくため息をついて「ウィー」と呼びかけ、ウィーの頭を撫でるように触れる。
そして、
「合体するよ」
とウィーに話しかけた。
この数日間やっていたようにウィーのギフトを使うつもりなのだ。
だが、ウィーは気持ち良さそうに撫でられるまま。
何も変化する様子がなかった。
「ほらね」
ステラは諦めたように立ち上がると、
「今まで使えていたのに、もう使えない。
これはダンがウィーをテイムしちゃったせいなんだよ。
ウィーのギフトは君だけしか使えない。
これがダンとウィーがパートナーになった証拠だよ」
「……う~ん」
なんだか腑に落ちない。
俺もウィーに触れてギフトを使えるか試せばいいのだが、あいにく怪我に響くからとステラストップがかかってしまった。
テイムに成功すれば何かしら変わるのかと思ったが、これ程までに実感がないとは。
「そんなことより」
「ん?」
「ダンは今後の予定とか決めていたりする?」
何でいきなりそんなことを? 今後の予定?
今後の予定って言われても、まずは怪我を直さなくちゃいけないし、その後はステラにウィーのことを交渉するとか?
竜姫っていう者がそう簡単にウィーを手離すとは思えないけど……ってか。
「そういえば、竜は見つかったのか?」
確かそれが目的でパーティーを組んだんだよな?
ウィーの母親探し。
俺の目的は達成されたし、今度はステラの目的を果たさないと。
ここ数日は俺もまともに動けなかったから一人で探していたみたいだけど、実際にはどうだったんだろうか?
「あぁ~……見つけられたは見つけられたんだけど……」
「!! そうなのか!?」
それはめでたいことだ。でもなんでだ?
頭を掻いて、目が泳いでいる。
なんだかちょっと言いづらそうな感じだ。
そして、ステラは意を決してパンッと手を合わせて、申し訳なさそうにすると
「ごめん。竜違いだった!」
「は?」
竜違い? 人違いみたいな?
つまり……あれか? ウィーの母親はここにいなかったってことか?
「だから竜違い。やっぱり噂話は信用できないね。竜は竜でももう既に骨になっていたし。きっと大昔にいた古竜の話が間違って伝わっちゃったんだろうねぇ」
「あ……あぁ……そうなのか」
「だから振り出し。もう一度、聞き込みから入らないと。――そこで」
ビシッと俺の顔を指差した。
「私の護衛になってくれない?」
「ご、護衛?」
「護衛は護衛だよ。私を敵や魔獣から護ってくれる人」
「いや、それはわかるから。いったい急にどうして?」
「私、もう護衛いないでしょ? 今まではそれでも大丈夫――というかむしろフィールドワークには必要なかったんだけど、今は……ねぇ?」
とステラは横目でウィーを見つめる。
「……つまり、俺がウィーをパートナーにしちゃったから、自衛する手段がない、と?」
「そういうこと。だから、君が護衛になってくれれば、敵や魔獣から怯えなくていい」
……ステラが魔獣を怯えている姿なんて想像できないけど、一理あるな。
でも、ステラのことだからな。
これは建前で、他に理由があるに違いない。
「なおかつ! 『テイム』の副作用はまだ健在だからね。私の研究にも役立つ!」
本音はそれか。
魔獣研究の第一人者にとって俺のギフトは喉から手が出るほど欲しいに違いない。
眼が超キラキラしているし。
「それに……」
ステラの圧に押されて黙っていると、間髪入れず、表情を暗くし、トーンを低くする。
「これじゃあ国にも帰れないよ……ウィーも奪われて、護衛もいなくなって……この後、どうすればいいのかな……う……う……」
「あぁ! あぁ! わかったよ! わかった。なってやるよ!」
「本当! ありがとう!」
嬉しそうな笑顔。やっぱり泣き真似だったか。
まぁでも良いんだ。
仕方がなかったとはいえ、ウィーを奪ってしまった責任もある。
ステラが国に帰れるまではせめて俺が護衛を務めてやる。
なってやるさ。
『竜姫の護衛』に。
「ん」
だから、今度は俺が手を前に出す。
その行動に何を察したのかステラはニンマリと笑顔になって、それに応えてくれた。
「これからよろしくね」
「よろしく」
こうして俺は初めての護衛に就くことになった。
これからどんな道があるのか、まだわからないが、ステラとウィーがいれば、なんだか大丈夫な気がする。
「よし! じゃあまずはダンの怪我を治そう! 街まで急げだ!」
「あ、いや、待て! 引っ張るなって! イタタタタ!」
「がうがーう!」
走る俺たちを追いかけて、白い子竜の声が高らかに天まで響いた。
竜姫の護衛~テイムができないテイマー、実力派パーティーをクビになったので、竜オタクの姫とパーティー組んで、最強のパートナーを見つけます~ 久芳 流 @ryu_kubo
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