第13話 子竜の力

「『テイム』!!」


 光がそいつを――ウィーを包む。

 それどころか、俺も包み始めた。

 急に明るくなった足元に目が眩み、人狼は思わず目を凝らしていた。

 今までになかった現象に俺は直感した。

 そして、それどころか、こいつの力も俺に流れ込むことで、直感は確信へと変わった。


「な、なんだ!? ウォッ!!」


 わけも分からず、人狼は叫び、衝撃と殺気を感じて、近くに飛んだ。

 警戒している人狼の前で、光は次第に収束し、


「なんだ?」


 驚きの声を上げたのは、きっと今の俺の姿が見えたからだろう。

 手放してしまったステラを軽く抱き抱え、雄々しげに立つその身体には白いオーラが纏わりついていた。

 熱くもなく冷たくもないそのオーラは身体にぴったりと張り付くわけでもなく、ゆらゆらと漂っていた。

 そのオーラによってかどうか、今までの痛みは感じなくなり、むしろ全身に力が漲る。


「これがウィーの力……」


 オーラからウィーの意思を強く感じた。

 『その人の性格や思いを感じ取って自分自身を変化』させるギフト。

 まさに今のこれが俺を読み取って変化した結果なんだろう。


 今までにない雰囲気に人狼は警戒していたが、


「ふん。まぁいい」


とすぐに余裕の笑みを浮かべる。


「姿形が変わろうと所詮、子竜のギフト。

 小娘に合体した時に一度下した。俺より弱いギフトだ。

 誰が使おうとそれは変わらない。俺の方が強い!!」


 話半分に聞きながら俺はステラを木の近くに優しく置くと、


「――――‼」


 足に集中したオーラを噴出させ、一瞬にして間合いを詰める。

 目にも止まらぬ速さに驚き、人狼は後ろに仰け反った。

 そのおかげで懐がガラ空き。

 隙を逃がさず、俺は力いっぱい握った拳を奴の腹へ――。


「『筋骨隆々』!!」


 だが、人狼はしぶとい。

 俺が殴る瞬間に、人狼は筋肉を肥大化させた。

 大きくなった筋肉は攻撃力を上げるだけでなく、防御力も上げる。

 オーラも集中させて殴ったが、思ったよりは吹っ飛ばず、人狼は二本の道を地面に残して後ろに下がっただけだった。

 だが。


「ゴフッ! ――バカな」


 耐えきれなかった。

 衝撃は内臓まで浸透し、人狼は血反吐を吐いた。

 肉体強化をしても尚、堪えきれない衝撃に人狼は驚きを隠せない様子だ。

 だが、すぐに気を取り直し、ミシミシと音を立てつつ、更に、更に大きくなる。


「だが、不意をつかれただけだ」


 盗ったギフトの能力を利用して、今度は、人狼が一気に俺のところに突進する。

 デカい拳を振り上げて、俺とウィーを殴り飛ばすつもりだ。


「お返しだ」


 ――バチン!


「ナニィ!?」


 人狼が俺に触れるか触れないかの瞬間、ウィーのオーラが障壁と成り、人狼を弾いた。


「『転移』!」


 ――バチン!!


 別のギフトを使い、一瞬にして俺の目の前に現れたが、また障壁で遮られる。


「……『炎操作』! 『土槍』! 『空気砲』!」


 今まで奪ったであろうギフトを全導入して、俺に技を繰り出すが、


「――!?」


 ウィーのオーラに包まれた俺は人狼の攻撃を一切受け付けない。


「何故だ!? 人によって変化するとはいえ、出力が違いすぎる!! ありえない……ッ!」

「それは……そうだよ……」


 狼狽える人狼に弱っていたステラがそう声を上げる。


「テイムはね、パートナーの能力を強くするんだ。それも、テイムできる数に反比例する」

「なんだと……!?」

「ダンのテイムは、おそらく、一匹。だけど、その一匹を限界まで強くするんだ」


 身体を包むオーラが大きく唸る。

 伝わるパワーは力強く、心地よい。

 限界まで引き出された能力を俺のために、人狼を倒すために、そしてステラを守るために。

 ウィーから伝わる意志に俺も応えるため、人狼を一瞥し、拳を強く握った。

 オーラは一際大きくなった。


「ククク……」


 そんな俺たちの様子を眺めていた人狼は喉を鳴らした。何が可笑しいのか。


「どうしたんだ?」

「いやな……貴様がまさかこんな力を隠していたとはな」


 人狼は伸びた鼻に手を置き、大きく不気味に口角を歪める。


「上手そうな匂いがしていたのもそのせいか。

 自分を強くすることが本能的にわかったんだ!

 方針を変更だ。貴様を喰って、子竜を奴隷としよう。

 そうすれば、俺は更に強くなれる!」


 手を伸ばす。

 木々がざわつき、蔓や根が伸びて、俺と人狼を巻き込んで、植物の牢が完成した。

 俺を閉じ込めて逃がさないつもりだ。

 人狼は腕を肥大化させ、炎を顕現させた。

 俺も拳に全オーラを集中させる。


「これで最期だ。すべての力を出して貴様を狩る!」


 言い切った瞬間、人狼は俺に突撃する。

 それに合わせて俺も人狼の元へ。最終局面。この一発に全てを掛け――。


「――な~んてな」

「!?」

「『土槍』!」


 人狼は急に突撃を止め、地面を踏みしめる。俺の足元から土の棘が何本も勢いよく出現した。


「ゴフッ……」


 俺の身体を土が貫いた。

 全オーラを拳に集中させていたせいで防御が疎かになっていた。

 ――だけど!


「うぉおおおお!」

「なんだと!?」


 俺は足に力を込めて、強引に土の槍を折る。

 痛みなんかどうでもいい。

 この一発に全てを掛けるのは変わらない!

 驚いている人狼。土の槍を。植物の蔓を。炎を。空気の圧を。

 全て出して俺の行く手を阻むが、俺は真っ直ぐ人狼の元へ。

 致命傷となるところ以外は避けない。


 常に出続けているオーラ。


 俺やウィーの何かのエネルギーを使っていることがわかる。

 だけど初めて使ったから調節が効かず、べた踏み状態。

 おそらく長期決戦には向かない。

 ここで止まれば、オーラが消えてしまい、俺は力尽きてしまうだろう。


(――だから!)


 走れ。走れ。

 人狼を倒すために。

 力尽きたら、誰がステラやウィーを、街のみんなを守るんだ!

 ラースさんや他の喰われたみんなの敵を討つんだ!

 拳に全てを乗っけて、奴の顔に重い一発を!


「いい加減に――死ねぇ!」


 目の前まで近づくと、人狼は鋭利な爪で俺を切り裂こうとする。


 ――バチン!


「――――!!」


 だが、障壁に邪魔された。

 おそらくウィー自らの意思だ。

 拳に全集中している俺には障壁を出す余裕はないからな。


「うぉぉぉおおおおおお!」


 人狼が怯んだ隙に、俺は左足を踏みしめ、右足で地面を蹴り、腰を回転させて、右肩、腕、拳全てを連動させて――。


「ま、待ってください! ダン」


 全力を放つ瞬間、人狼の顔は大きく歪み、そこに現れたのは、ラースさんの顔。

 自然とギリッと歯ぎしりが鳴った。




「私にもう会えなくなってもいいんですか? 俺がいなくなれば、もう私には――」





「お前がラースさんの顔で、ラースさんの声で、命乞いをするなぁぁあああああ!!!!」



 一際大きくなったオーラを収束させることなく、俺の拳はラースさんの顔を模した人狼の頭へ。


 強い衝撃。


 白いオーラは爆発し、取り囲んだ植物を吹き飛ばす。

 直撃した人狼はもちろん耐えきれなかった。

 人狼は、真っ直ぐ飛び、目の前の大木に直撃した。


「はぁはぁ……」


 全力を出し切った。

 全身を包んでいたオーラはもう拳で灯火のようになっていた。

 もうこれ以上は合体を維持することはできない。

 ウィーとの合体を解除すると、ウィーも力を使い切ったのか隣でぐったりとしていた。

 そして、人狼を見ると……もう動いていない。

 殴る直前化けたからか、人狼の顔の半分はラースさんと化していた。

 子供の時からお世話になっていた。

 ギフトをうまく使えなかった俺を優しく励ましてくれた。

 パーティーをクビになり続ける俺の愚痴を聞いてくれた。

 それは最近でも――。だから一言、言おう。


「ありがとう……さよなら……ラースさん……」


 限界を迎えた俺の身体は抵抗することなく力尽き前のめりに倒れた。

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