動物や魔獣を従える『テイム』の能力を持ちながら、何故かどの生命も従ってくれない。なのに副作用で強力な魔物ばかりを引き寄せて、周囲に迷惑をかけてしまう冒険者の少年『ダン』。
そんな彼が偶然にも出逢ったのは、子竜『ウィー』を連れ歩く隣国の姫君『ステラ』だった。成り行きで彼女の護衛となったダンはステラの願いを聞き入れ、ウィーの母親を探すため、そして自身がテイムできる本当のパートナーを探すため、『竜姫ステラの護衛』として新たな旅へ出る。
昨今流行りの追放モノ、テイム系であり、そして「無能」や「役立たず」と評価された主人公が、能力を正しく使用して活躍するベタな物語でした。
まず冒頭でダンを追放した冒険者パーティの面々が、「この厄介者が! お前なんかクビだ!」と言って放り出すような、性格の悪い『ありがちな連中』じゃなかったのは良かったです。
ダンのおかげで強い魔物と戦ってレベルアップできて、しかし負担が大きくなったために仕方なくダンをクビにする。ダン自身も100回目の追放に落ち込みつつ、そんな彼らへ怒りや復讐心を見せなかったため、キャラへの反感やストレスを抱くことなく、最後までスラスラと読むことができました。
そして約3万文字という短くまとまった読切作品的な内容の中で、しっかりと起承転結が付けられていたのも好印象です。ステラと出逢い、真の敵と対決し、最後はダンの能力が真価を発揮して敵を倒す。実に王道なプロットでした。文章的にも過不足なく、とても読みやすかったです。
ただ、敵を除いて『性格の悪い人がいない』のは良いことですが、逆にそれが作品全体の印象を『地味』にしていました。
ステラは優しさと強さを兼ね備えた欠点のないヒロインに見えますが、『隙』のないキャラというのは人間味に欠けます。タイトルにある『竜オタク』要素があまり感じられず、例えば『竜を見たり竜の話題になると、気持ち悪いくらい興奮する』……などといったインパクトやギャップがないと、読者の記憶に残りにくいです。
そして作品全体のテーマとしても、追放モノやテイム系ジャンルが溢れる昨今の流れに対して、特別なにか頭ひとつ抜けた要素や個性溢れるアイディアといったものは見出せませんでした。
とはいえ、文章力やお話をまとめる構成力といった基礎はシッカリしています。一定の水準をバッチリとクリアしていました。
なので、作品の根底となるテーマやキャラクターや発想で、個性的だったり目を引くものを提示できれば、かなりの人気作を生み出す可能性を秘めているとも感じました。作者さんの今後の活躍に期待が持てます。