パンデミック、あの閉塞した空気感がここまでリアルに。名作です。

感染症蔓延により、出歩く人のほとんど絶えた街。家族を失い、大学もやめた主人公は、デリバリーのバイトを始める。時にウィルスそのものであるかのように罵倒されながら、時折秘密のドリンクを添えて。いろいろな心情を片付ける暇もないまま、地獄のような世界で右往左往する主人公は、ひとつの出会いによって、固く封じていた心の結び目をほどかれていく…。だが彼らを取り巻く現実はあまりにも無情だった…。
「あの頃」、ニュースで報じられる感染者数は増え続け、ステイホームは自粛はリモートはいつまで続くのか、治療薬はワクチンはできないのか、営業できなくなってしまった店はどうなるのか、などなど、先の見えない感はすさまじかった。今でこそ、さまざまな行事が再開されたりマスクを外す人が増えてきたりもしているとはいえ、感染者はまた増加しつつある。あんな時期を繰り返すことはもうないと思いたいが、こんな息苦しさに塗りつぶされた日々があったことを、本作で思い返すのは、大きな意味があると思う。
僭越ながら、名作、と言わせていただきたい。

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