生きるのも、死ぬのも、難しい。――本文より。

 主人公は父子家庭で育って、大学に進学した。ところがその矢先、世界がパンデミックに陥った。謎のウィルスの蔓延によって、人々の生活は制限され、非日常はそれに慣れた人々の日常となっていく。
 そんな静止した世界で、大学を中退した主人公たち、フードデリバリーの精鋭たちだけは忙しく動き回っていた。指定された食事を、指定された場所に届ける。時には、サービスとしてドリンクを付けて。
 配達途中だった主人公は、同じバイトをする一人の女性に出会う。何度か顔を合わせる内に、二人の距離は縮まっていく。
 ところが、主人公は配達途中に酔っ払いに絡まれて、サービスのドリンクをその酔っ払いにかけてしまう。女性と一緒に自宅に戻った主人公は、人との繋がりを求めていた自分に気付くのだが……。

 一見、現代社会の風刺のようだが、ある仕掛けによって世界観はがらりと終末感を倍増させる。静止した世界と、動き回る主人公という、対立軸もブレがなく、機能していた。「動く・動かない」というお題に対して、ここまで完璧に応えられる御作は、見事の一言に尽きる。

 是非、御一読下さい!

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