第10話 友だちって
「オカン、ちょっと待って」
退社時間になって自転車置き場の前を通りかかったときのことだった。
ウメに声をかけられ、無視して通り過ぎようとしたが、はみ出して止めてあるバイクに足を引っかけ転倒した。
ガチャ、ガチャ、ガチャ。
自転車ドミノは止まらない。
「痛いっ」
「大丈夫?」
ウメが駆け寄って来た。
何とか立ち上がったが、右足に激痛が走った。
「オカン、歩けそう?」
集まって来た数人が口々に言う。
「何とか」
「大丈夫そうやないね、病院行かな」
「ウメ、あんた連れてってやり」
張り通す意地も遺っていなかった。
ウメに鍵を預け、保険証などの入ったヴィトンのバッグを家から持って来てもらう。
その間、誰かが用意してくれた折りたたみ式のパイプ椅子に座って待った。
足の爪先に心臓があるみたいに、ズッキン、ズッキンと痛みが増していった。
タクシーに乗り込むのにウメの手を借り、下りる時も、病院の中でもずっと手を借りた。受付の手続も全部やってくれて、待合のソファーに座りそれを見ていた。
レントゲンを撮りに行くのに車椅子に乗せられた。
右足親指の骨折だった。
会計と薬を待つ間、ソファーに並んで座わりしみじみと言った。
「友だちってありがたいね」
素直にありがとうといえばええのに。
「カメとシーちゃんと3人でランチしたとき、オカンの悪口はほんまに言うてへんよ。でも、ヒロセさんの話はした。オカンは本人不在の悪口はスカンやろ。目の前に本人がおったら注意とか、教えたることになるけど、いてへんときに言うたら、ほんまのことを言うてても悪口になるって嫌がるやろ。そやから誘えへんかったん」
「そのまんま言うてくれたらよかったんよ」
「うん、でも悪口ランチに行かへん? なんて言われへんよ。ときには思う存分悪口が言いたなることがあるねん。オカンにはわからんかもしれんけど」
ウメもオカンも目が潤んできて、照れくさそうに笑った。
付き合いが長いのにウメがそういう人やったというのをすっかり忘れとった。
職場敷地内の怪我だったので労災扱いにならへんか、ウメがかけあってくれるらしい。独身の頃、勤めていた会社で労働組合活動をグイグイやり過ぎて、退社に追い込まれたという話をウメから聞いたことがあった。
💙オカンの日常生活 オカン🐷 @magarikado
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