第9話 劇場へようこそ

 仕事中にウメが冗談を言ってきても笑われへんようになった。

 うん、うん、と首を振ることはあっても言葉は返さへん。

 関係の修復に躍起になっているのはわかるんやけど、冷め切った心を取り戻す事はでけへん。男女の仲とそれは変わらへんかった。


 それでも、ヒロセさんが他の持ち場で再雇用されているという話には驚いた。

 また、ヒロセさんの話題で盛り上がっている。

 本人不在の悪口はあまり好きになられへん。


 おかしなもので、昨日のことを知らんでおったら疎外感を感じずにおられたのに、今ではすっかりハミゴ気分。

 ヒロセさんも孤独な気分でいたのやろ。


 終業時間になると、とっとと帰る。

 ウメが何か言いたそうにしていたが、取り付く島もないという態度で家路を急いだ。


 家に帰ってやることは同じで、たいていラーメンかパスタを茹でる。やっぱり生麺が美味しい。それがないときはご飯にカルボナーラのパスタソースをかけ、ピザ用チーズをふりかけ電子レンジでチンする。

 ナオにカロリーハンパないわと言われるが、何か? オカンがデブって迷惑かけましたかと開き直る。

 食後に甘いもんが欲しなる。ブタ一直線。


 旦那は定年退職する人の送別会があるから晩ご飯はいらんと言っていた。

 ピザでも取ろうかと思ったが、ナオの明日の弁当のおかずが何もない。

 弁当箱にピザを詰めて持たせたろか。冷めたピザは食えたもんやないと言うに違いない。高校にピザ屋の宅配を頼んだら、どんな顔をするやろ。フフッ。


 面倒臭いけどショッパーズに行って来ようか。

 彼女たちにまた出くわすだろうか。何も悪いことしてへんのやから億することあらへん。自転車のペダルを力強く踏み込んだ。


 商店街の中ほどにさしかかった。今日も色とりどりの風船が飾り付けられている。

 昨日より少し時間が遅いせいか、呼び込みの女の子はいなかった。

 アーチ型の入り口から中を覗き込もうとしたとき、

「老人会のボランティアをしているのやない。タダで景品をあげてどうするんや。健康補助食品を売ってなんぼやろ。おまえの給料はどうするんや」


 上司の怒鳴り散らす声。

 女の子が怒られる台詞が一言一句違わずに繰り返された。

 同情をひいて健康補助食品を買わせようとした小芝居だったのだ。


 じゃんけん劇場にようお越し。 






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