第123話 そして戦場へ……
「よし、ランティクス帝国とヒエーレッソ王国、それぞれの観覧者のリストは出来たな。後はどの位置に席を設けるかだが……」
「……分ける……?」
俺の言葉にウルルが首を傾げる。
「ひと纏めにした方が管理はしやすいだろうが……両国の連中が顔を突き合わせるのはまだ早いか?」
「ランティクス帝国としては歯牙にもかけない相手でしょうが、ヒエーレッソ王国側からすれば生きた心地がしないかもしれませんね」
続けた俺の言葉に、今度はレヴィアナが難しい表情をしながら答えてくれる。
まぁヒエーレッソ王国はオロ神聖国派だからな……宰相とか大臣だけじゃなく、ヒルマテル公爵もガクブルするかもしれん。
現在、俺達はランティクス帝国とヒエーレッソ王国から届いた観覧会の返事を囲み、打ち合わせをしていた。
参加者は俺とウルルとレヴィアナ……一応プレアとレインもいるが、基本的にこの二人は話を振らない限り発言しないからな。
……女の子多すぎひん?
レイフォンかランカーク辺りが居てくれれば……そう思うけど、エリストンも含めて三人とも忙しいからな……。
まぁ、この覇王……多少女の子に囲まれたくらいでは動揺なんかしないにょ?
「観戦に集中できないのは頂けないな。やはり場所は分けるか……?」
「……近くに置いて……天幕を分けたら……?」
天幕か……それもありだな。
っていうか観覧席をどんな風にするかを考えて無かった……いや、その辺りはレヴィアナ達が抜かりなく準備してくれていると思う。
一応招待客自身お忍びって事は理解しているし、天幕が分かれていたら他所に突撃する馬鹿は……そこまで考えて、めちゃくちゃ他所の天幕に突撃かましそうなおっさんの顔が浮かぶ。
あいつの場合、来るなと言っても絶対に来る。
姿を変えれば誰にでもなれるあのおっさんが……戦争の観覧なんてイベントに来ない筈がない。
釘を刺すにしても、そう簡単に言う事を聞くような奴じゃないしな……面白そうとか言う理由で突撃しかねん。
いや、あのおっさんがその気なら、多少離したところで結果は変わらんか。
「そうだな。ウルルの案を採用しよう。それぞれの天幕を設置して、覗こうとしない限りお互いが顔を合わせない程度の配慮で良い」
「……わかりました……設営は……任せて……」
ウルルが設営するという意味では無く、諜報部の方で設営および警護をするという意味だ
「あぁ。頼む。それと現地でのもてなしは、レヴィアナ。お前に任せる……主にランティクス帝国の方を相手してもらうつもりだが、いけるか?」
「問題ありません。恐らく顔もバレていないでしょうし、ヒエーレッソの方も取り仕切って宜しいでしょうか?」
レヴィアナは元王女だけど、あんまり他所の国に顔が売れてないしな。
それにヒエーレッソ王国の上層部はポンコツ感が果てしないようだし、まずレヴィアナの顔は把握していないだろう。
とはいえ……。
「分かった、そちらも任せる。だが、一応変装くらいはしておくか。相手の無能に期待して無駄なリスクを負う必要はない。ランティクス帝国にはいくらバレても構わんがな」
「畏まりました。そのようにいたします」
「ランティクス帝国は……皇帝以外、問題は起こさんだろう」
「……その御方が一番問題なのですが」
「くくっ……まぁ、アレも俺がその場に居なければ無茶は言わんだろ。問題を起こすとすればヒエーレッソ王国の連中だな」
「……ヒルマテル公爵の苦労が目に浮かびますね」
……確かにそうだな。
連中が問題を起こした場合、ダメージを受けるのはこちらじゃないしな。
「まぁ、戦闘が始まるまで大人しくしてくれていれば問題は無いだろう。戦闘が始まれば……騒ぐ余裕はない筈だしな」
「聖騎士四人……陛下を疑う訳ではありませんが、大丈夫ですか?」
「問題ないな。戦闘に絶対はないが、それでもあえて言おう。誰もが分かる形で、圧倒的で絶対的な勝利を見せてやる」
少し心配そうなレヴィアナに、俺は普段通りの笑みを見せながら答える。
準備は整った。
後は開戦の時を待つばかりだ。
View of ソルトン=リーフ=ハイゼル オロ神聖国 第一位階ハイゼル家当主
聖地を出発して数日。
エインヘリアとの国境付近にある平原に私はやってきた。
第一から第五の神殿騎士とその下に兵が総勢六万。
聖地で行われた教皇の演説……ドルトロス大司教とモルトロール大司教の殉教の発表と聖戦の宣言によって集まった信徒による義勇兵が二万五千。
けして怒りを見せることなく、深い悲しみを見せ……教皇猊下という神に最も近い立場にありながら、一人の人として友の死を嘆くその姿に多くの信徒は涙を流し、流した涙の量だけエインヘリアなる蛮性の支配する国へと怒りを向けた。
その結果が義勇兵二万五千という正規軍の半数近い数だ。
合わせて八万五千。
そこに輜重隊や文官、商人等が合わさり十万近い規模の軍容となっているのが我が軍だ。
小国の中でも更に小さい部類の領土しか持たない相手には過剰過ぎる数の軍だが、一切油断はしないという教皇猊下の強い意志が反映されていると言えよう。
ただの略奪ならばともかく正規の戦争ともなれば、当然統率の執れていない烏合の衆では役に立たないので、しっかりと正規軍を使って義勇軍の統率を計っている。
そもそも義勇軍という名ではあるが、指揮官クラスは基本的に神聖国軍の関係者で固められているし、参加者達自身、立身出世の為ではなくあくまで信仰の為に立ち上がった者達なので統率は非常にしやすい。
エインヘリアへの悪感情を更に掻き立てるのであれば、この義勇兵たちをエインヘリアの者に殺させるのが手っ取り早いが、私は彼らを前面に出すつもりはない。
義勇兵は訓練を受けた兵とは違い、戦意こそ高いが練度が低い。
エインヘリアは今回の戦に一万の兵を動員しているが、その殆どが国の西側を守る辺境守護領の者らしい。
彼らは常に魔物戦い続けた精兵。
対人のエキスパートではないが、義勇兵とは比べ物にならない強さだし、神聖国軍本隊でも対抗できるのはヒエーレッソ王国で魔王国軍と戦っている第七軍の精鋭くらいのものだろう。
練度ではエインヘリアが、数では我々が圧倒的に有利という状況。
しかし、今後を考えれば……相手の陣容は実に好都合と言えた。
恐らく、エインヘリア王は西の森にある魔物の脅威を甘く見ている……だからこそ一万もの兵の動員を行えたのだ。
辺境守護領の兵達は自分達が国の盾、魔物に対する最前線に立っているという自負がある。
それを英雄の力で強制的に人同士の戦に出した……納得できるはずもないし、今この瞬間、魔物が森から溢れ出ればその被害は未だかつてないものとなり得るだろう。
エインヘリア王の求心力は低下し、教会への依存を上げる絶好の機会だ。
無論、その分この戦場での戦いが激しくなるわけだが。
とはいえ、いくら辺境守護の兵が精兵であったとしても、八倍以上の差を野戦で覆す事は出来ないだろう。
全てが練度の低い義勇兵ならともかく、こちらの半数以上は正規軍なのだ。
流石に魔王国軍と半年近く戦い続け、ようやく帰還してきた第七軍を今回の戦に参陣させることはできなかったが、それでもこちらは正規軍だけで相手の六倍。
野戦で戦う以上、この数は簡単には覆せない。
我々が気を付けるべきは、奇襲や奇策……そしてエインヘリア王の存在だ。
エインヘリア王に関してはギラン殿を始めとした聖騎士に任せる他ないが、エインヘリアの軍は私達が対応しなければならない。
……まぁ私達と言っても、お飾りの総大将である私にできる事はないが。
軍議の場には呼ばれているが、特に発言することもなく、神殿騎士達のやり取りを眺めているだけだ。
ここまで全て予定通りに進んでいた。
戦場に到着したタイミングも、陣地設営も、義勇軍と正規軍の折衝も……何の問題もなく、水が流れるがごとく実にスムーズに事は進んでいたと言える。
しかし……ここに来て、大きな問題が発生した。
戦場にエインヘリア軍が姿を現さないのだ。
相変わらずエインヘリアの動きは我々の元に入って来ていなかったが、教皇猊下からエインヘリア軍は一万で、こちらの予定している戦場に向けて国内を移動しているという情報を頂いていた。
到着はこちらと同じくらいと聞いていたのだが……未だに影も形も見えない。
一体どういうことだ?
教皇猊下の情報が間違っていて、エインヘリアは別の場所から攻め込んで来ている?
いや、流石に神聖国領内にエインヘリアが姿を表したら、教皇猊下の情報網じゃなくともこちらに情報が入ってくる筈だ。
しかし、軍が放っている斥候も、教皇猊下の使っている密偵も……ここに来てエインヘリア軍の動きを完全に見失った。
こちらは既に布陣を済ませ、後はエインヘリア軍がここに来るのを待つばかりという状況なのだが……。
打ち合わせをしている神殿騎士達の表情にも焦りが見える。
もしエインヘリアが別の場所から攻め込んできたら……。
一万もの軍勢を移動させるにはそれなりの道が必要となるし、攻め込める場所も限られている。
仮に意表をついて別の場所から攻め込んできたとしてら、それはつまり我々八万以上の軍がエインヘリアへとなだれ込むという事。
無論、我が国には一万の軍を防ぐだけの兵力があるが、エインヘリアにはもう殆ど兵は残っていない筈。
仮にエインヘリアが他所から攻め込むのであれば、我々はこのままエインヘリア領内に進軍すれば良い。
ここで対陣しないことで不利になるのは、間違いなくエインヘリアの方だ。
数が少ない分身軽に動けるのは確かだが……それでも影も形も見えないというのは……軍議の様子を見つつ私がそんなことを考えていると、天幕の外が騒がしくなるのを感じた。
……エインヘリアの軍が見えたか?
斥候が戻るよりも早くその軍が見えた事は疑問ではあるが、やっと姿を現したことに安堵のような感情を覚える。
外の様子に気付いたのは私だけではない。
天幕の中に居た神殿騎士達も、私と同じように軍議には参加していたが一切発言をしていなかったギラン殿も……天幕の入り口に目を向ける。
「失礼します!」
すぐに天幕の外から声がかかるが……若干慌てた様なその声音に嫌なものを感じる。
「入れ」
「失礼します!西の空から何かが近づいて来ております!」
「何かとはなんだ?」
「まだ距離があり、はっきりとは分からないのですが……」
「良い、分かっている情報だけ話せ」
「はっ!物見からは巨大な魔物のようだと」
「……西側の森から何等かの魔物が飛来して来たということか?」
「恐らくそうではないかと……」
厄介な。
遠目から分かるほど巨大な魔物が、よりにもよってこの戦場に向かって来ている?
いや、ここには四名もの聖騎士がいる……考えようによっては幸運だったとも……。
「どんな魔物か分かりませんが、実際に見た方が良さそうですね」
ギラン殿が穏やかな面持ちのままそう言って天幕の外へと向かう。
続いて神殿騎士達も外に向かい、最後に私を含む数名が天幕の外に出て……なんだあれは?
遥か遠くの空、羽が生えているようにも見えない細長い何かが、こちらに向かって飛んで来ていた。
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覇王になってから異世界に来てしまった! ~エディットしたゲームキャラ達と異世界を蹂躙する我覇王~ 一片 @hitohira_1192
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