第25話
ひと月が経った。警部がようやく全員が吐いた。と言って持参したのは、浅草仲見世通りにある、江戸時代から続いている老舗、和菓子屋「金龍山」の揚げ饅頭。外側さっくり中しっとりの皮、その皮にピッタリの餡。食べなきゃ損である。
パクつきながら、警部が話すには、
6月16日、本庁の取調室は大忙し、満室となった。
被疑者は、富埋家の洋一会長を始め、一行社長、澪取締役、兼伸課長、次男の嫁の優の5名。USガード(株)から五稜正司国会議員のボディーガードの頭逸秋人、遠辺陽一、霞啓一郎、洋算譚司の4名。
足立淳は柊仁美殺害の実行犯として再逮捕された。
富埋鷗州は直接の容疑は無いものの、(株)富埋貿易の専務としての立場から事情を聞かれている。
総勢11名の事情聴取が本庁の取調室で行われている。本庁でも滅多にない光景に開いた口が塞がらないと上層部が言っているらしい。
五稜議員も議員会館内で事情を聞かれた。
発端は、柊十和誘拐未遂事件だ。主犯が富埋優で事件を計画し、頭逸秋人、遠辺陽一、霞啓一郎、洋算譚司の4人に一人5百万円で実行させた疑いと、十和のアパートの部屋も、裏帳簿を探すために下着泥棒を装って侵入し荒らした疑い。
次が、滝上真二殺害事件だ。主犯は富埋澪で誘拐事件にも関与した頭逸秋人が実行犯。札幌の母親の施設入所頭金4千万円を澪が肩代わりすることを条件に殺害を実行させた疑い。
この2つの事件には関連性があり、殺害の動機は覚醒剤の売買を、経理処理を通して滝上真二に気付かれたことである。が、もう1つ、会長の洋一と社長の一行、一行の長男で経理課長の兼伸が脱税目的で帳簿を二重に作っていた事を、滝上に見抜かれたうえ、裏帳簿を盗まれた。その行方を追って、恋人の十和の部屋を荒らしたが発見できず、誘拐して滝上に帳簿との交換を持ちかけようとしたが失敗。それで滝上を殺害し部屋を荒らしたが発見には至らなかったのである。帳簿は滝上が銀行の貸金庫に隠して、その鍵を十和にプレゼントしたぬいぐるみに隠したのだった。
また、柊十和は富埋家の次男鷗州と恋仲だった柊仁美との間に生まれた娘。将来的に十和にも相続権が発生するので、次男の嫁優は十和を誘拐し、帳簿を取り返した後に、殺害するつもりだったと吐いた。遡って20年ほど昔、優は十和の母親仁美が、次男鷗州の子供を産もうとしていることに腹をたて、足立淳に毎月40万円を払う約束で殺害させた、その現場を録画した吉井遼に足立が脅迫され、10年間は毎月20万円ずつ支払っていたものの、吉井が毎月40万に増額するよう脅したので殺害したと吐いた。足立は吉井殺しで逮捕され2年前に出所したのだが、動機は酒の上での見知らぬもの同士の喧嘩という事になっていた。
吉井が録画したメディアが足立の自宅から発見され、事実が明らかになったのだ。
前日15日の午後8時、富埋貿易の倉庫に一台のワンボックスが到着。一斉に投光器が車を照らす。男4人が驚きの様子で車から降りる。機動隊や警官が周りを取り囲み、逮捕に至った。澪にしかけた盗聴器から聞こえた、ホテルで密談する五稜議員の告げた日時場所を、丘頭警部に伝えていたことが逮捕に直結した。
荷台には段ボール箱がひとつ。捜査員が開くと白い粉が小袋に入って、段ボール箱をびっしりと埋め尽くしていた。議員のボディーガードの4人だった。丘頭警部から聞いた覚醒剤の密輸で4人を逮捕したときの様子はそんな感じだった。
これには富埋家の、一行社長、澪取締役、兼伸経理課長が絡んでいる。議員への事情聴取もこのために行われた。
鷗州は優と離婚したそうだ。父と兄妹に兄の長男までもが犯罪に関わり、まして自分の妻がかつての恋人を殺害した主犯と聞いて、さらに、娘の十和をも誘拐し殺害しようとしたと知って、呆然として、愛想も小想も尽き果て、離婚を決意。
会計処理も帳簿を正規なもの1つとするため、税理士に方法やその為に必要な資金を計算させた。おおよそ15億円と言われ、父と暮らす住宅、兄の住宅、妹の住宅を売却し、不足分は自社株を拠出し残りを預貯金でと考えを伝え、あとは税理士に任せ、自らは既にアパートに引っ越したようだ。
会社は、自分以外は解任。自分も来年新しい株主の前で辞任し、新役員に全てを任せ、自身も完全に退くようだ。
近日、五稜正司議員が議員辞職するとテレビに流れるはずだ。とこそっと教えてくれた。
話を聞いていると、階段からボソボソと話す声、階段を噛み締めるように一歩ずつ上がってくる足音、皆んなで注目していると、十和が姿を現した。
軽く頭を下げ、段下に手を差し伸べ、引いている。何事かと美紗が行くと、叔母さんとおばあちゃん。美紗も手伝いソフア迄手を繋いで、コトコト杖をつき、ふーと大きく息を吐いて座る。
「有難うございました」叔母さんは涙し喜んでいる。おばあちゃんは、神様にお祈りするように両手を合わせ、一心を拝む。何かぶつぶつ言いながらだが、よく聞こえないので、叔母さんの方を向くと解説してくれた。
「有難うござます。長年、胸につっかえていた思い、悔しさ、哀しみ、腹立たしさ。答えが出るとは思っていなかったのに。全てが明らかになった。それで仁美のお墓にきちんと報告も出来たし、思い残すことは無くなった。いつ仁美に呼ばれても良い」
随分長い説明だったので、多分、叔母さんの気持ちも含んでるんだろうなと、聞いていた。
「遠いとこ、しんどかったやおへんか?こら、おいしいよって、お食べやす。今、おぶ用意しますよって」
静かはスッとお茶入れに立つ。
「あの〜今の方は外人さんで?」
叔母さんの真顔に、皆んなで大笑いしてから
「一心の妻で、京都出身なもんで、京都弁抜けないんですよ。今、言ったのは、遠いところ、お疲れ様でした。この揚げ饅頭美味しいから食べてください。お茶をお持ちしますから。と言ったんです」美紗が通訳する。
「そうですか、有難うございます。てっきり外人さんの英語か何かと思いました。すみません」
また笑う。
「どないしはった?」静が不思議そうな顔色をして茶を出す。
クスクスしながら
「何でも無い、綺麗な奥さんねって言ってた」
「まあ、ほんとかいな、おおきに」
喜ぶ静に、にかにかする一心とおばさん達。
「おじさん、これ」
十和が封筒を一心の前に差し出す。
「何だ?」
「お礼と調査費用と、あと・・気持ちです」
一心が中を見ると封した万札。
「おいおい、こんなに多すぎるぞ」
「いいの、富埋の鷗州さんと言う人が来て、自分が父親だ。すまなかった、迷惑をかけた。十和が良かったら認知する。一緒に住んでも良い。他に希望があれば何でもする。お詫びとかで一億円貰って欲しい。お金で何でも解決しようと考えてるんじゃない。何かをしないと気が済まないんだ。自分の娘なのに知らないふりをして。今の妻の優とは離婚した。そう言ったんです。
だから、私、母を捨てる様な人、お腹に子供がいるのに無責任過ぎます。そんな人を父親だなんて思えません。関わりを持ちたくありません。ですから、相続なんて心配しないでください。一億円なんて要りません。1千万円で良いです。それだけもらったら其方も気が済むでしょうし、私も決着したと割り切れます。そう応えました」しっかり一心を見つめ、言葉をひとつ、ひとつ、思いを込めているように一心は感じた。
「で、先日、振り込みされたので、おばあちゃんと叔母さんに半分送って、おじさんに百万円。残りは私の結婚資金にと決めたんです。ですから貰ってくれないと困ります」
「ははは、十和ちゃん、しっかりしてるなあ」
「私には、父親が二人、大将とおじさん。母親はおばさん。だからもう他に親は要らないんです」
「お〜嬉しいねえ、静、聞いたか」
「へえ、嬉しおすなあ」
「今度は、意味わかった。うれしいって言った」叔母さんが嬉しそうに喋る。
「へ?なんどっしゃろ?どないしはりましたん?」
一同、笑いに埋まる。
終わり
ブラックハート殺人事件 きよのしひろ @sino19530509
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