花より他に知る人もなく

霧の朝、S県S市の寺町にある、S寺に白い着物の美女が現れる。
住職の姉は不思議な女を寺に招き入れると、彼女はこの寺の縁続きの者だという。
そして、この寺であった古い物語を語り始める。
「あのひとは私のすべてでした」と

いつの世の帝の時代であったのか。

御所で行われた紅葉合わせでひときわ美しい紅葉を献上した伊勢の守の姫がいた。
彼女の趣向の見事さに、帝は大いに興味を抱き入内するよう命じた。
伊勢の守は一人娘の出世に大いに喜び、天上の幸せを得たと喜ぶ姫であったが、傍にいた彼女のお付きの侍女、玉水はその夜、ひっそりと姿を消した。
やがて、宮中入りを果たした姫はその入内は藤原氏の力が支配する場であり、彼女の期待とは裏腹な冷遇されたものであった。
冷たい玻璃の宮で彼女は最後の日、侍女、玉水が残した…続きを読む