TSゲーマー、ダクファン世界を配信中! ~魅力極振りの有翼ヒーラー(3重地雷)はドラゴンさえソロ討伐可能の最強ビルドでした~
一ノ瀬るちあ@『かませ犬転生』書籍化
プロローグ
プロローグ|最弱ビルド VS 最強龍種【同接1万人達成!】
――推奨レベル46MAP、ヨトゥン凍土。
山岳のような氷塊が連なる大地の中央で、ひとりの少女が湖水と向き合っていた。
毛先にかけて淡青色に階調がかった銀髪をハーフアップにし、差し色に黄色を入れた白と青のサイバー系の衣装を身にまとっている。
少女は身構え、純白の翼を広げた。
銃器のグリップに手をかけ、眼前広がる吹雪のカーテンに銃口を突き付ける。
その射線上に現れたのは巨大な影。
・来たぁぁぁぁぁ!
・無限氷龍ノーザンクロス‼ 最強格モンスター‼
・マジで単騎で挑むの⁉
視界の隅、チャットウィンドウが目まぐるしい勢いで更新される。少女が配信しているこの仮想空間へと、同時接続者数5ケタに迫ろうという視聴者からメッセージが届けられているのである。
少女のレベルは34、ステータスの差は歴然。
到底ソロで挑むべき相手ではない。
「負ける気は無いですけどね」
少女は銃器の引き金を引いた。
・ねえ今HP減った⁉
・減ってない。装甲が高すぎる
音さえ置き去りにした銃弾はしかし、氷龍のHPゲージをわずかも削らなかった。
龍種のまとう鱗は装甲が分厚く、彼女の持つ武器では威力不足だったのだ。
だが、着弾した時点で狙い通りである。
「芽吹け……【ヒールストーム】ッ!」
弾頭に込められていたのは植物の種子。着弾の衝撃で氷龍相手に根を下ろした寄生植物が、上級の回復魔法【ヒールストーム】によって急速に成長する。
ジリリとドラゴンの残HPが減少する。
龍種の翼に生えた樹木は、寄生対象の生物の生命力を奪う能力があるのだ。
たまらず氷の龍が咆哮を挙げる。
龍種専用スキル【ドラゴニックロア】。
状態異常『スタン』を周囲にまき散らす凶悪な技能が吹雪を引き裂いた。
ふたつの鋭い眼光が、少女を射抜いている。
敵とみなしたのだ。
最強と呼ばれる龍種が、小さなヒト族を確かな脅威と捉え戦闘シークエンスへ移行したのだ。
だから氷龍は目の前で昏倒しているはずの少女に向かって、勢いよくそのアギトを下ろした。上下の牙が、重厚な金属を打ち付けたような音を響かせる。
だが、そこに嚙み砕いた感触は無かった。
鎧ではなく布装備の相手だ。
文字通り歯ごたえなく、そのHPを丸ごと刈り取ってしまったのだろうか。
・上だ‼
否、そうではなかった。
状況を理解できてないドラゴンの頭上では、翼をはためかせた少女が再び銃器を構えていた。
・耳栓?
少女はコメントに笑みを浮かべ、引き金を引いて返答した。
「大正解」
耳栓はアクセサリーの一種である。
レア度は最低。ステータスの上昇は無し。
だが音系攻撃を無効化できる。
事前に【ドラゴニックロア】の情報を仕入れていた少女は徹底的に対策を練ってドラゴン退治に挑んでいた。
からくりは単純だ。
だがその些細な小細工が功を奏し、2発目の弾痕が刻み込まれた。間髪入れずに唱えられた【ヒールストーム】が種子を樹木に育成する。
3発目……と再び狙いをすまそうとした時だった。
「やば……」
氷龍が生成した無数の氷の槍が、少女目掛けて飛来する。仕方なしと言った様子で旋回した有翼の少女が、氷柱の雨の中を縦横無尽に駆け巡る。
・ドッジロールのタイミング完璧すぎだろ‼
・無傷⁉ あの槍の雨を全弾回避⁉
・プレイヤースキルえぐない?
少女は視界の隅を流れる賞賛の嵐を横目に、上空から龍種を追撃する。
これで龍種に寄生した植物は3。
両翼、そして尻尾に生えた樹木が氷龍の行動を制限する。
上空にいる限り爪と牙は恐ろしくない。
これだけ離れればブレスだって届かない。
最大射程の【ドラゴニックロア】はアクセサリーの耳栓で対策済み。
盤石な布陣だった。
あとは弾丸を麻痺効果のあるゴム弾を空から降らし続ければスリップダメージでいつかは倒せるはず。
そう考えた少女はカートリッジを交換しようとし、手を止めて目を見開いた。
「へ――?」
龍が、跳んだ。
飛んだではない。
ぐぐぐっと湖面を踏みしめると、飛沫を上げて、少女目掛けて一文字に襲い掛かったのだ。
完全に想定外の動きだった。
少女が仕入れていた前情報にそのようなムーブはなかった。
「(避けられ、ない――)」
膝を抜くかのようにノーモーションでためを作ったドラゴンは、既に大顎を開いて正面から迫っている。
そのうえ少女は翼をはためかせた直後だったので、回避行動をとることすらままならなかったのだ。
半秒後にはむき出しの牙に少女の体は引き裂かれ、電子のポリゴン片となって散るだろう。
だからとっさに銃を構え直し――、
雷管を叩いて弾丸を軟口蓋にぶちこんだ。
比較的柔らかい部位を狙撃したはずだが、それでも龍は怯まない。呼応するように少女もまた意識をひとつ深い次元に落とし込む。
極限の集中が時間に粘性を持たせた気がした。
もどかしいほど緩慢な時の流れで、少女は悠然と口を開く。
刹那、氷の龍の口内に撃ち込まれた弾丸が急成長する。少女の放った【ハイネスヒール】で大樹へと化けたそれが、ドラゴンの下顎を内部から圧迫する。
――――――――――――――――――――
【部位破壊】氷龍の大顎
――――――――――――――――――――
ポップアップしたウィンドウを一瞥することもなく、少女は流血エフェクトをぶちまけるドラゴンを蹴り飛ばして戦線離脱。
折りたたんでいた羽を再び広げて空に陣を取る。
手早くカートリッジを麻痺弾に換装。
セレクタを操作しフルオートに切り替え、むき出しとなった上あごに次々と弾丸の雨を存分に浴びせる。
悲鳴を上げた氷の龍に待ち受ける運命は、状態異常スタンを浴びて自由落下を開始する未来だった。
「――ひざまづきなさい」
龍種は高速飛行する特性上、進行方向に頭部を置いた体勢がもっとも空気抵抗の少ない形となっている。
自然、頭を下に重力に吸い寄せられていく。
気絶した龍に着地を決められる道理はない。
地鳴りを起こし、その巨体が凍土に突き刺さる。
耳栓越しに、ファンファーレが鳴り響く。
・おおおおおおお‼
・マジで倒しやがったぁぁぁぁ‼
・俺もひざまずきたい
・おめでとおおおおお‼
ポリゴン片へと崩れていく大きな影、無限氷龍ノーザンクロス。
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