3話 天翼種 × 魅力極振り × ヒーラー = 地雷?
広場を離れた俺は、フィールドへ繋がる門の手前辺りでウロウロしていた。
目的はひとつ。
一緒に旅する仲間を探すためだ。
探すため、なんだけど……。
「あの、すみません」
剣を持ったプレイヤーに声をかける。
しかしスルーされる。
「あの」
弓を持ったプレイヤーに声をかける。
しかしスルーされる。
「すみません」
槍を持ったプレイヤーに声をかける。
しかしスルーされる。
「……」
おかしい。
なんでこんなに無視されるんだ?
フィールドへ出ていくプレイヤーを見る限り、アタッカーの割合がすこぶる高い。ヒーラーやタンク職は珍しい。需要はあるはずなんだ。でも話すら聞いてもらえない。イジメかな?
「ねえ、そこのお姫さん」
振り返った先に、男がいた。
種族は多分獣人。頭部にイヌ科の耳が生えてる。
装備はザ・和装束って感じの細部に金や赤の装飾を施したシルクの衣装で、腰には日本刀より長い刀を装備している。
初期装備にしては豪華すぎない?
いや、そういえばβテスターは一部アイテムを製品版に引き継げるんだっけ。
つまり彼はβ版体験者ってわけか。
「お……自分ですか?」
俺、と言いかけて一人称をごまかす。
ネカマと姫プは火事のもと。
地雷を好むプレイヤーもいるだろうけど、少数だろう。わざわざ地雷要素をさらしていくのは愚の骨頂だと言っても過言ではない。
「うん、そう。その通り。
「へ? ど、どういうことですか?」
そう言えば、さっきから道行く人は角が生えたプレイヤーばかりだ。一方、自分に声をかけてくれた彼は和テイストの装束を身にまとっている。
種族とコミュニケーションに何か関係があるのだろうか。
「やっぱ罠だよねえ。
男は言いずらそうに首の後ろをかいた。
「
「……はい?」
「姿かたちも声すらも。メタ的に言えばパケット通信にフィルタが掛かってるんだけど、種族特性上認知できなくなってるんだ」
「つ、つまり――
「まあ、うん、そう。その通り」
マジかよ。
マジかよ……! 聞いてないけど⁉
地雷職じゃねえかよ……それ!
「あー、えーとだね。追い打ちをかけるようで悪いんだけど、
「どうしてですか?
「理論上はそうだね。でも、
な、なるほど……!
だから誰もかれも
裏を返せば、
「リ、
「……βテスターとしてハッキリ言うと、
理由は3つ。まず、
「ま、待ってください!
「死にステってほどじゃないけど、敵性Mobからヘイトを買いやすいんだ。タンクなら上げる意味もあるけど」
察しろ、みたいな空気醸し出さないでください。
タンク以外だとゴミってことですね⁉
ハッキリ言ってくださいよ!
いや、待て。
絶望するにはまだ早い。
それ以外に隠し効果が存在する可能性も……!
「ほ、他に効果は無いんですか? 顔がよくなるとか、NPCから特別なクエストが発生したりとか……!」
「
「い、意味な……っ」
マジかよ。マジかよ……!
道すがらステータスポイントを
必死になって死にステ育ててたのか⁉
ウソでしょ⁉
「悪いけど、これでまだ2つ目だからね?」
そ、そうだった。
まだ2つしか聞いてない。
「3つ目は――そう、翼」
「へ?」
男は俺の背後を指さしながら言った。
「このゲームは急所が確率じゃなくて部位で決まってるんだよ。例えば
「へえ……じゃあ首とかもそうなんだ? あれ?
頭部が弱点なのは全種族で共通しそうだけど。
そうじゃないのかな?
「うん、そう。その通り。
その通りなんだ。
てか、え?
この話の流れって、もしかして……。
「……翼、なんですか?
「そうなんだよ」
「嘘でしょう⁉ 狙いの的じゃないですか!」
「うん。そう。だからタンクにしか適性が無いのにタンクとしては欠陥種族。他の能力の伸びも微妙だから、まあ地雷なんだよね」
「地ら……っ」
「せめて空を飛べたら違ったんだろうけど」
「と、飛べないんですか」
「難しい話になるけど、現代のフルダイブ技術は脳神経を行き交う電気信号を解析して仮想空間上に反映しているんだ。つまり――」
「――人は、空の飛び方を知らない」
男の放った言葉が、この電子の体を金縛りにした。
喉がキュッと閉じたまま固まって、声のひとつも出やしなかった。
実を言うと、楽しみだった。
でも、そっかぁ。飛べないのかぁ。
そりゃそうか、そうだよな。
だって現実の俺は翼なんて生えてない。
空を飛ぶ感覚はおろか、羽の動かし方さえわからない。
「あれ? でも魔法はあるんですよね?」
癒術師には回復魔法があるし、攻撃魔法を使える職業だってあった。翼の動かし方を知らないから空を飛べないというなら、魔法の無い現代で生きる俺たちが魔法を使えるのはおかしな話だ。
「ああ、そっちはプログラムに組み込まれてるから」
「えぇ……」
なんだその理由。
夢のカケラもありゃしない。
「まだサービス開始直後だし、キャラクターを作り直すのもひとつの選択肢だよ?」
男は手をせわしなく動かしながらそう言った。
焦りが見える。
理由は、言わずもがな、かな。
心無い言葉で人を傷つけたと思っていそう。
でもね。
「いえ、逆にやる気が出ました」
不遇種族?
死にステータス?
ミスマッチ職業?
上等だ。
逆境くらいがちょうどいい。
「見下した奴らを見返すときほど痛快なことは無いでしょう?」
あと配信的においしい。
「ははっ、面白いね、キミ」
「どうも」
ぴろん。
ポップアップしたウィンドウを見ると、フレンド申請が届いていた。
お、これワンチャンある?
今回こそパーティ勧誘に成功する?
地獄の底でみた希望の光の可能性ある?
「あの、もしよかったら一緒にパーティを――」
言葉はそこで途切れた。
「あ! いたいたユウくん! お待たせー!」
広場の方からやってきた
「ううん。ボクもいま来たところだから」
「えー本当にー? ふふっ、ユウくんは優しいね!」
「ボクが優しいのはミーシャだけだよ」
「んもう! えへへー。じゃあいこっか!」
そう言って、カップルは仲良くフィールドに出ていきました。coupleとは二人一組のこと。そこに自分は含まれていない。
まあいい。許そう。
右も左もわからない状況でこれだけいろいろ教えてもらったんだ。
その恩は大きく、こんな些細なことで仇なすほどじゃあない。
次に会ったときはPKするけどな!
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