2章 火力が無ければ銃器を作ればいいじゃない

1話 エリアボスをソロ討伐する

 ヒーラーのレベリングは結構きつい。

 それがソロならなおさらのこと。

 谷底にゴブリンを突き落としながら、わたしはあらためてそのことを思い出していた。


「うーん……効率がなぁ」


 再ログイン後、ひとりしこしことレベリングに励んでいるけれど、レベルは変わらず6のまま。

 サービス開始直後だけあってポップするモンスターを奪い合う環境だし、運よく野生のゴブリンを見つけても今度は人と鉢合わせないルートで崖まで移動しないとわたしには倒せない。

 攻撃特化悪鬼メイヘムはこうしている間にも順調にレベル上げをしているだろうし、差はどんどん開いていくはずだ。


 どうしたものかな、と草原を空から見下ろしていると、岩石が点在する窪地を見つけた。

 ここにもなにかイベントがあるかもしれないと思い、急降下して降り立った。


「うわっとと、いたたぁ」


 岩に降り立った瞬間、よろめいた。

 慣れない飛行だったからだろうか。

 重心が体の軸の外に飛び出して、石の上にぺたんと腰を打ち付けてしまう。


 ……ん?


 んん⁉


「ちょ、え、ええええぇぇぇぇぇぇぇ⁉ 岩が動いてるぅ⁉」


 ゴゴゴと地鳴りがしたかと思ったら、ロボットの合体シーンのようにあたりの岩が集まり意思を持ったように暴れだした。


 ぴろんと効果音が聞こえて、目の前にメッセージが表れる。


――――――――――――――――――――

【Quest】ストーンゴーレム退治

――――――――――――――――――――

ザンガの草原にある巨大な窪地。

そこを根城にする魔物を討伐しよう。

――――――――――――――――――――


 そっちかぁぁぁ!


「無理無理無理むぎゃぁぁぁぁ⁉」


 その場でゴーレムはブンブンと腕を振り回し、わたしはポイっと放り投げられた。


「わたしのダメージソース落下ダメージだけだよ⁉ 窪地で、しかもあんたみたいに重量ある魔物をどうやって倒せと⁉」


 くるりと空中で身を返し、受け身を取る。

 羽虫を払うように扱われただけだというのに、HPバーが半分を下回り、緑から黄色に変色している。


 勝てない勝てない勝てないって!

 こういうときはね、36計逃げるにしかず!

 もちろん逃げる際には「命拾いしたわね!」と捨て台詞を忘れない。

 いやぁ、空を飛べてよかった。


「いっ⁉」


 ぶぉんと嫌な風きり音が耳朶を打つ。

 岩石だ。巨大な岩石が、ものすごい速度でわたしのすぐそばを通り抜けていった。

 もしや……。


「……うそでしょ?」


 見下ろした先に、岩石を掴んで投球フォームを取るストーンゴーレムの姿があった。


――――――――――――――――――――

【旋回】発動

――――――――――――――――――――

ドッジロールの無敵時間が微増します。

――――――――――――――――――――


 嫌な予感がして前方にローリングすると、わたしの体を巨大な岩がすり抜けていった。


 なんできちんと遠距離対策してんの⁉

 バカなの⁉ 序盤で出てくる装甲が高いモンスターは魔法で倒すのがお約束でしょ⁉

 遠距離に強い設定にしてどうするの‼


「ふっ、ぐぅ」


 ゴーレムは次から次へと岩石を飛ばしてくる。

 しかも、こちらの行動を先読みしたかのように的確に投げてくるせいで、十分に加速をつけられない。

 わたしは窪地の中という狭い檻での戦いを迫られた。


「……くっ、だったら!」


 わたしはドッジロールで回避をしながらゴーレムに接近すると、ギリギリで避けて真上に飛翔した。

 頭上を飛ぶわたしに向けて、ゴーレムが岩石を放り投げる。

 背後から迫りくる巨大な質量を持った岩塊を、ギリギリまで引き付けて回避する。


「お返しするわ、遠慮はいらないわよ」


 翼をかすめて上昇した盤石が、重力に従って落下を開始する。

 鉛直投げ上げ運動を行っていた岩石が、初速と同等の速さでゴーレムに飛来する。

 破砕音が鳴り響き、土くれをまき散らしながら煙が舞う。手ごたえありだ。

 しかし……。


「硬いよぉ……」


 ねえ、減った?

 今HP減った⁉

 物理方面に耐性高すぎない⁉

 これどうやって倒せと⁉


「くあっ!」


 雑念にとらわれたところ狙い打たれた。

 翼をかすめた石塊が、わたしのHPをゴリゴリ削る。


 まずい。

 やられる前に一度回復を挟んで……。


「……あ」


 あるじゃん。

 ダメージを与えられるかもしれない方法が、ひとつ。

 精霊から受け取った寄生木やどりぎの種。

 パラサイトシードである。

 HPを吸収する効果のあるあの樹木なら、このゴーレム相手でも通用するんじゃないかな……?


「いやでも、本当に使ってもいいの?」


 明らかに怪しかったんだよね。

 あいつは後々裏切る。

 わたしの直感がそう言ってる。


「っ‼ ああ、もう! 考えるのはやめた!」


 自身にヒールを唱えてHPを確保した後、わたしは再度ゴーレムの頭上を飛行した。

 対遠距離ユニットを搭載したAIは、的確にわたしを狙って岩石砲を繰り出す。


 それを、もう一度回避した。

 のち、今度は岩石の後ろをぴったりくっついて加速する。

 ただ自由落下をする岩石と比べれば、地面に向かって加速しようとする私の方が早い。

 半秒もすれば岩石にぶつかるだろうという、その時。


 眼前で岩石が砕け散った。

 ゴーレムの体に打ち付けられた岩が、破片となって砕け散ったのだ。

 飛び散る石片がわたしの体に打ち付けて、HPゲージをものすごい勢いで削っていく。

 さなか。


「取ったわ……! あなたとのゼロ距離!」


 素早くインベントリからパラサイトシードを取り出すと、わたしはゴーレムのジョイント部に種子をねじ込んだ。

 続けざまに手をかざし、呪文を唱える。


「芽吹いて……【ヒール】!」


 ごりごりと生命の息吹が押し寄せる。

 ゴーレムの岩肌に根を生やし、巨大な樹木がいきり立つ……!


「うえぷ……で、でかすぎない⁉」


 その樹木は高さ3メートルはあった。

 ゴーレムは体中を根っこで絡めとられ、身動きもままならないようだ。


――――――――――――――――――――

空亡ソラナキ】発動

――――――――――――――――――――

空中にいる間、与ダメージが増加します。

――――――――――――――――――――


「しかもHPの減る速度が結構えぐいし、なんかわたしのHP回復してるし……」


 いまこうして傍観している瞬間も、ストーンゴーレムのHPがゴリゴリ削れていく。

 そして反比例するようにわたしのHPは回復していく。

 あ、そろそろ倒しそう。


――――――――――――――――――――

【Level UP;8】

――――――――――――――――――――

ステータスポイント20UP


スキル【牙城自縛がじょうじばく】獲得

牙城自縛がじょうじばく】:バインド系の攻撃時、

 相手のDEXに下降補正が掛かる。

取得条件:バインド系の攻撃時、

 相手が行動を失敗すると確率で取得。

――――――――――――――――――――

【収穫】パラサイトシード

【収穫】パラサイトシード

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 いやったぁぁぁぁぁ!

 倒したぞ……! 強敵ストーンゴーレムを!

 なんかパラサイトシードが増えてるけど気にしない!

 明らかに呪いのアイテム臭がするけど気にしないのだ!


 そしてなんか強そうなスキルも手に入った!

 ゴーレムの動きが鈍くなったと思ったら、パラサイトシードは束縛バインド系の攻撃判定なのね。

 そのうえHPドレインまでつくとか最強か?


 こんなことができるのも魅力特化ヒーラー限定なんです!


――――――――――――――――――――

【World News‼】

――――――――――――――――――――

Renさんがエリアボス【ストーンゴーレム】の

ソロ討伐に成功しました!

――――――――――――――――――――


「おおおおおおお⁉」


 ワールドニュース、初めて見た‼

 これは、来ている、魅力特化ヒーラーの時代が!

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