ゲームに囚われたのは、ただ一人の製作者

 近未来なVRゲームに人の意識が囚われる……というと、古くは『クラインの壺』、著名なところでいうと『.hackシリーズ』『ソードアート・オンライン』といった名前がつぶさに挙がります。ゲームでは『Death end re;Quest』もでしょうか。
 有り体に言えば王道設定ですが……この作品は少し毛色が異なっています。

 製作者はただ一人。
 そしてゲームに囚われた、唯一の被害者。

 前代未聞の危機に見舞われた幼馴染を救うべく、デバックを試みる主人公。ボーイミーツガールも含むであろう内容です。
 序章部分にも尺を割かれているのは、ボーイミーツガールの根幹を提示すること、そして時系列を追って製作者が一人であることを印象づける意図があってだと思いました。丁寧な前振りはウェブ小説では冗長であると避けられますが、本作では事件発生までの情報も多分に含まれるため、本題の冒険を待望する方にも読んでほしいです。

 また「天才といえど、グラフィックやBGMも一人で作り得るのか?」といった疑問はつきまといますが、VRゲームもの全般にも言える他のプレイヤーの存在を介在させないための措置と分かるため、一概に短所と言えない部分にも采配が光っていると感じました。(もっとも、公開分すべてである序章までしか読んでいない身では、眉唾な憶測に過ぎないかもしれませんが……)

 物語はまだ始まったばかり。一味違うミステリアスなフルダイブゲームものの今後に胸躍らせたいと思います。

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