大和型共闘

「大和を前に出せ」


 武蔵の被弾直後、大和艦長は命じた。

 陣営が分かれても妹を守る姉のように大和が出て行き盾になった。

 敵味方、いや東西陣営共に驚いたが、同時に納得した。

 当時の艦長もなぜこのような事をしたのか分からない。

 味方、後方の空母を守るために前に出ただけであり、偶然武蔵の前に出てしまったとされている。

 しかし、大和が武蔵を守ったことは確かだった。

 迫ってくるミサイルを次々と撃墜し武蔵への被弾を少なくする。

 協力する約束は取り決めていないがそうなった。

 いや自然とそうなった。


「新たなミサイル接近! イランの第二次攻撃です!」


「主砲斉射! 迎撃せよ!」


 大和の全ての主砲が火を噴き三式弾を放つ。

 武蔵越しの射撃であり通常なら危険だったが、お構いなしだった。

 相手は姉妹艦武蔵。

 もし外れ玉が当たっても、武蔵は同等の装甲を持つため、弾をはじき返せる。

 まして対空弾程度では、傷も付かない。

 そして、大和は武蔵を追い抜き、迫り来るミサイルに対して主砲を打ち続ける。


「負けるな。こちらも前に出よ」


 大和が立ち向かう姿を見て武蔵も負けじと前に出て行く。

 南北に分裂してからのライバル意識もあった。

 だが、姉が戦うのならば自分もという気持ちも高い。

 大和の戦う姿に武蔵は奮起した。

 被弾による火災は激しく未だ炎上していた。

 だが、武器が置かれていたのはバイタルパートの外、重要区画は無傷であり戦闘可能だった。

 その強靱さは大戦中から幾度も実戦を経てきたこともあって折り紙付きだった。

 また大和の戦訓を、同型艦の上、ライバルであり常に情報を収集しており、大和のこれまでの被弾と改修を武蔵はフィードバックしていた。

 甲板の炎上はスプリンクラーによって洗いながらされ、火勢は徐々に収まり、消えていく。


「砲撃再開」


 <解放>いや武蔵の艦長は火が消えると命じた。

 大和に負けじと主砲を放ち、対空榴散弾を放ってミサイルを迎撃していく。

 それは、久方ぶりに見た大和型姉妹の共闘だった。

 二隻が戦う姿を上空のパイロットたちは特等席で見せつけられ、圧倒された。

 それぞれ東西の装備が付けられ姿は変わっているが、元となる日本的な造形美は残されており美しく見える。

 彼女たちが放つ世界最大の艦砲である四六サンチ砲の激しい炎が、その関係を妖艶に煌めかせ、恐ろしい威力を見せつけていても、圧倒的な美を見せつけている。

 彼女たちの位置、構図も素晴らしかった。

 後方で炎上する妹の信濃を守るため、長女と次女が手を取り合って戦っているようだった。

 両艦の間には決して協力関係では無かった。

 だが、自然と連携を見せる姿は、大和と武蔵が姉妹艦であることを東西隔てず思い出させるには十分に印象的な光景だった。

 そして、海の帝王姉妹の前に敵は居なかった。

 迫ってくる敵ミサイルを相手に次々と迎撃していく。

 大和、武蔵から放たれる四六サンチ対空弾と作り出される弾幕、鉄の嵐を突破できるミサイルなど無かった。


「打ち方止め!」


 全てのミサイルが迎撃されてからようやく主砲が鳴り止み、静かになった。

 大和は無傷だった。

 武蔵は被弾し損傷していたが、バイタルパートは無傷であり、兵器の一部が破壊されていたが、他を圧する姿は維持されていた。

 むしろゴテゴテに取り付けられたソ連製の装備がなくなり、精悍な姿に見えてしまったほどであり、東西両将兵を圧倒させた。

 この両艦の迎撃により、残ったイランのミサイルは全て迎撃。

 東西の艦隊に、これ以上の被害は出なかった。

 さらなる攻撃を加えようにもイラン側はこの攻撃に賭けていたため、全てのミサイルを投入、消費していた。

 両艦とも警戒していたが、攻撃は無かった。

 海の上での死闘はひとまず落ち着いた。

 だが梶谷の戦いは続いた。

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2024年11月17日 08:00
2024年11月18日 08:00
2024年11月19日 08:00

架空戦記 旭日旗の元に 葉山 宗次郎 @hayamasoujirou

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