信濃、武蔵 被弾
イラン軍が放った大量のミサイルの内、四発が信濃に向かった。
防空ラインの隙間を突き、手薄だった後方から回り込んできたのだ。
気がついたときには既に防空陣形の内側で他の艦は対処しようが無かった。
信濃は自らを守るため、装備していたシースパローを放つ。
だが、海面の乱反射にミサイルの誘導が邪魔され、一発を撃墜したのみで、残り三発が接近する。
「CWISコントロールオープン!」
「迎撃開始します」
「頼むぞ……」
信濃乗組員の一人が、ロボットの名前、つい先日、三部作の最終作が公開された名作SF映画に出て来るロボット、ファランクスCWISにそっくりなことからあだ名が付いていた。
映画通り万能さを発揮してほしかった。
愛称のロボットのように白い胴体を回転させ、空に向かって傾く。
白いのはレーダードーム、その下にバルガン砲が付いており、電源を入れれば全自動でミサイルを迎撃してくれる優れものだ。
こいつを信濃は全周囲に配置し、どこからミサイルが来ても大丈夫な備えをしていた。
CIWSは弾幕を張る。だが、射程が短すぎた。
二〇ミリバルガン砲の射程は二〇〇〇メートルほど。
音速で迫ってくるミサイルが飛びきる時間、命中まで数秒しかない。
その間に探知、攻撃、撃破をCWISは自動で行えるが、対処時間が短すぎる。
一発を撃墜できたのは上出来だった。
直後、二発目の迎撃を行い、命中弾を与えたのは奇跡だった。
だが、そこまでだった。
命中してもミサイルの勢いは止まらず、しかも当てたのが至近距離だったため、そのまま信濃左舷中央部に突っ込んだ。
幸いなことに、ここは装甲が厚く、周囲の装備を吹き飛ばしただけで、大きな被害は無かった。
だが右舷後方に命中した一発は被害が大きかった。
右舷後方のサイドエレベーターを作動不能にして航空機運用能力を激減させた。
更に深刻な被害は着艦装置、アレスティングワイヤーの機構が故障し、事実上運用能力を喪失。
信濃は大破した。
「なんてこった」
信濃の損傷を受けた知らせがパイロットたちに伝わるや、無線に動揺が走った。
「どうすればいいんだ!」
「死んじまうぞ」
戦闘中にもかかわらず信濃に乗艦していたパイロット達は罵った。
「明日から何を食えばいんだ! 犬の餌か!」
これではメシマズ――少なくとも信濃より味の劣るニミッツに降りなければならないことを罵る。
「逆に盾になれよ」
「自分が下した敵国を盾にするのは恥ずかしいぜ」
発信者は不明、あるいは意図的に受信者達が隠したためだが、発音からアメリカ海軍所属パイロットが呟いたとされる音声が記録されていた。
さらに、その中で予期せぬ事態が起きた。
「ミサイルの一部が東側の艦隊に向かいます!」
近くを航行中だった東側艦隊にイランが放ったミサイルが飛び込んできた。
クウェートから出航する東側のタンカーを守るため、西側艦隊よりホルムズ海峡へ近づいていたのも原因だった。
しかも中国製ミサイルの識別装置の精度が悪く、東側艦艇を目標と勘違いしてしまったのだ。
特に、改装されたとはいえ、大和の同型艦であり東側艦隊最大の軍艦である武蔵、<解放>にミサイルが殺到した。
自分たちが狙われていることに気がつき、東側、武蔵も対応する。
武蔵が主砲斉射を浴びせ、続いてS300ミサイルで迎撃。
接近すると一三〇ミリ連装速射砲で迎撃、更に近づくと三〇ミリCWISで弾幕を張る。
しかし、西側に比べて電子技術が遅れている東側は、システム面、目標の捕捉、選定、攻撃の割り振り、評価――撃破したか、未だ脅威か判定し必要なら再攻撃する、という一連の過程を迅速に行うことが出来ず、ミサイルの迎撃に失敗した。
多数のミサイルが武蔵、<解放>に襲いかかり、被弾した。
「武蔵被弾! 炎上!」
大和の見張が叫んだ。
多数のミサイルを被弾し武蔵は船体各所から火災が発生。
艦全体が火だるまになり、夜を照らすほど激しく燃え上がった。
誘爆――大和に対抗するまで過剰な程まで武装を搭載し、甲板の全てのスペースに武器を置いた――まで起こり、沈没は時間の問題かと思われた。
だが、そこへ近づく艦があった。
「大和が武蔵の前に出て行った!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます