ホルムズ海峡沖防空戦

 艦隊に到達した長射程型シルクワームの数は、九六基。

 これは非常に脅威だった。

 しかも全方位から迫っており、容易に撃墜できない。


「全艦、防空戦はじめ!」


 防空指揮官の命令の下、直ちに艦隊はミサイル攻撃に対して反応し、防空戦闘機が撃ち漏らしたミサイルに対する迎撃を開始した。

 彼らの迎撃が終わると水上艦艇の対空ミサイルによる迎撃が始まった。

 中核となったのは就役したばかりのタイコンデロガ級イージス巡洋艦だ。

 第二次大戦中の日本軍による航空攻撃に始まり、極東戦争の共産軍の航空攻撃、ベトナム戦争の対艦ミサイル攻撃に悩まされたアメリカ海軍が開発した防空システムの中心を担う艦だ。

 プロトタイプはロングビーチなどに装備されていたが、動力を原子力としたため、取得費が高価になってしまった。

 タイコンデロガ級イージス巡洋艦はその反省から、通常動力型のスプルーアンス級駆逐艦を元に設計建造されている。

 お陰で大量生産配備が可能となった。

 タイコンデロガはその一番艦だ。


 タイコンデロガ級イージス巡洋艦について

https://kakuyomu.jp/works/16816927862107243640/episodes/16818093088068599567


 特徴的なフェーズドアレイレーダー――平面に敷き詰められた無数の発信装置がわずかなズレを生じさせることで、上下左右にレーダー波を放てる。

 旧来のレーダーならば回転装置で動かさなければならないが、固定されているため、不要。

 船体の四方に配置されており全周囲を走査する事が可能となり、探知に有利だ。

 その能力は発揮され、すぐさまミサイルを見つけ出した。

 ターターの発展型であるスタンダードミサイルが発射され、ミサイルを迎撃する。

 しかし迎撃の狙いは、周囲の五月雨式に迫ってくるミサイルを中心に打っていく。

 ミサイルの密度が濃い中央部は意図的に残された。

 大和以下の戦艦部隊が主砲射撃により弾幕を張るためだ。

 迎撃をすり抜けた敵ミサイルを一網打尽にしようとした。

 その試みはうまくいき、最初の一撃で十数基が撃破できた。


 だが、ミサイルの量が多すぎた。

 東側も戦訓を学び、ミサイルを分散させ、全周囲から攻撃するようにプログラムを組んでいた。

 中国が輸出したシルクワームミサイルにもプログラムされており、あえて遠方から回り込むように左右後方からも迫ってきた。

 目新しい戦法ではなかった。

 第二次大戦末期、ミズーリに突入できたゼロ戦はがいた。このゼロ戦は出撃したものの接敵できず、帰還途中偶然米艦隊の後方から侵入し、にミズーリと接触。

 突入に成功した。

 いくらレーダーピケットを前方へ展開しても、隻数が足りないこともあり、後方などに穴が出来てしまう。

 連携の悪さもあった。


 大量のミサイルをどの艦が迎撃するか、迎撃位置に居るのか分からなかった。

 本来ならイージスシステムは各艦の戦闘システムとリンクして共同で迎撃する。

 しかし、各艦は最新であるイージスシステムを最新であるが故に、改修のための費用も時間も無いことから搭載できなかった。

 タイコンデロガから高速データ提供ならば瞬時に伝わったはずだが、通信回線の容量が足りなかった。

 十数分の猶予があれば適切に命じることができただろう。

 だが、ミサイルの速度が速すぎて迎撃の猶予は数分以下。

 味方の射程も考えると、一分も考える時間は無かった。

 効果的な迎撃ができなかった。

 タイコンデロガも十分な能力を発揮できなかった。


 イージスシステムが開発されたばかりで未熟な点はある。

 だがそれ以上に、タイコンデロガの防空装備が未熟で、探知したミサイルに対し放てるミサイルの数が限られた。

 Mk.26 mod.5 ミサイル連装発射機二基だけでは迫り来る大量のミサイルを全て撃破するには、発射速度が遅すぎた。

 全艦が最大限の能力を発揮したが、全体では数基のミサイルの突破を許してしまった。


「信濃にミサイル接近! 命中します!」

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