神様の肉

五色ひいらぎ

神様の肉

 教会から讃美歌が漏れ聞こえてくる。寒風吹く路地裏で、俺は盗んだばかりの食糧を懐から出した。

 そういや昔、神父から聞いたな。神の子の血と肉の話。だとすりゃ、これも神様の肉なのかね。あーあ、どうせなら本物の肉がよかったぜ。肉、半年は食ってねえな。

 きつね色の固い表皮を二つに割ると、スポンジ様の白いものが露になる。まずは中身をちぎり食えば、焼けた小麦の香りが口いっぱいに広がる。

 バターも何もついてないのに、白いふわふわは、焼きたての香ばしい匂いでいっぱいだ。

 皮もかじる。力を入れないと切れない厚い層から、一噛みごとに小麦の香りが染み出す。

 噛みしめながら、食う。唾でふやかしながら、固さがほどけていくのを味わう。

 かまどの熱さえ伝わってきそうな濃厚な香ばしさは、やがてすっかり俺の胃に収まった。収まっちまった。……もう少し、食ってたかったな。

 ありがとうよ神様。あんたの肉のおかげで、俺はなんとか今日も生きている。

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神様の肉 五色ひいらぎ @hiiragi_goshiki

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