読後の余韻が素晴らしい、素敵な物語

 人生は、何かを決断しながら続いていく。その決断は、前向きなものだけではない。むしろ、諦めといった、ネガティブなものの方が多い。
 こうした、人生で誰にでも起こりうることをドラマチックに語るのは難しい。誰だって、諦めずに進み続け、報われることを期待している。そして、その期待が物語に触れる理由となっている読者も多いだろう。
 けれど、この物語はむしろ、我々が選び、そしてこれからも選び続けていくであろう諦めの選択を描く。だが、そこに後ろ向きな感情はない。登場人物二人の素敵な関係性と、そこで語られる、諦め、決断することが新しい一歩を踏み出すのだという前向きさがあるからだ。
 この選択するという行為と、二人の関係性がとてもうまく結びついている。夢を諦めるという青春時代の選択から、その後の喜ばしい選択、そうして、終盤の悲しく、苦しい選択。この選択と関係性に芯がありしっかりしているから、断片的に語られる二人の物語の密度が増し、読者の心に強く響いてくる。
 ラストの表現もとても素晴らしい。悲しい選択も、それを選んだことで去来する苦しみも、流れる涙も、ちゃんと自分が選んだのであれば、きっとそれでいいのだと思える。思わせてくれる。
 切なく、愛おしく、悲しい。けれど、それ以上に前向きな光を見せてくれる。とても素敵な物語だった。