災厄の年に、山神に捧げられて神の器となった主人公と、主人公を慕う少年の物語。
少年は両親を亡くし、過疎で超高齢社会の村に引っ越してきた。親族の老人の家に預けられたものの、同じ歳の遊び相手もいない。そんな少年が主人公の前で泣くので、普段は姿を見せない主人公は、少年にだけ姿を見せていた。
ところがある日から、少年の様子がおかしくなった。そして少年は、主人公にあることを告げて走り去る。そして神の遣いから、主人公は、少年の言葉に返事をしてはいけないと、忠告を受ける。
そして、ある日のこと。少年は育ててくれていた老人や村の人々と一緒に、神様のところにやって来る。しかし……。
異類婚譚は多くあるのですが、この作品は人間の因果と、神様の役目との間で揺れ動く心情が、よく表現されています。この設定やストーリー、それらを書ききる文筆力には脱帽でした。
是非、御一読下さい。
5分で読書というテーマに合った読みやすさと、物語の深みが合わさっている素敵な作品。
物語の運びが丁寧で、簡潔に語るところ、踏み込んで語るところのバランスが素晴らしい。
読みやすさとのめりこみやすさが共存した文章と共に、登場人物の魅力もある。
神の器たる者、純粋な者、見守る者。
それぞれの人物にしっかりとした自我と個性があり、その魅力的なパーソナリティは、人物同士のかけあいでさらに魅力的なものになる。
それぞれの内面がしっかりと読み手に見えているから、ひとつひとつのやり取りがとても響く。
ファンタジーが存在する世界観の中で、そのファンタジーの魅力をしっかりと活かしつつ、描かれているのは、現代でも通ずる愛の感情の尊さ。
短編の中で、こうした魅力的な要素が、ちょうどよく、かつ深く展開していく。
文章表現、かけあい、設定、展開。どれもがとても面白く、心に響き、読了後も、心地よい余韻が残る。
いいものを読んだ。心からそう思える、素晴らしい作品だった。