キャラ、世界観、読みやすさ。様々な魅力に満ちた作品

 文章を通じ、物語を追っていく面白さ。そんな、小説という媒体が持つ魅力をひたすらに感じられる作品だった。
自分の生きる世界とはまったく異なる裏社会。こうしたテーマは重厚な社会派であったり、エンタメに振り切った作品であったりと、様々な形で描かれるものだが、この作品には、我々が生きる現実から乖離しない「ありそう感」と、エンタメ的なキャラクターがうまくあわさり、不思議なリアリティを生んでいる。
 物語の中に、現実があるとでも言おうか。短編の中で、細かな要素がしっかり活きていると感じられた。
 設定などを多くは語らず、台詞や行動で、キャラクターの立ち位置や性格を表現しているので、物語の主軸にブレがなく、読み進めやすさと面白さが両立している。
 ダークな魅力。こうした世界観の作品にはよくこんな宣伝文句がつくが、この作品には、単なる宣伝文句ではない、真にダークな魅力に満ちている。
 ライトで、けれどしっかりとノワールの乾いた魅力があり、犯罪小説好きも、ライトノベルなどに親しんでいる層も楽しめる、幅広いエンターテインメント作品。とても面白かった。