第65話 s.s ☆京香トッピング☆ 『最高に幸せな味』を完成させるには

「どうかな?」

 爽やかな笑顔でパンを差し出す圭介を見上げて、京香は幸せそうに微笑んだ。


「いただきます!」

 小さく一欠片切り取って、大切そうに形の良い口元へ納める。

 ゆっくりと噛みしめながら目を瞑った。味も香りも食感も、全てを感じるために全神経を集中させているのが伝わってくる。

 審判を待つ瞬間のように、圭介は緊張した面持ちでそんな京香を見つめながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 パチリと目を開いた京香。その瞳が新しい発見をしたように輝くのを見て、圭介はほっと肩の力を抜いた。

「大丈夫そうだね」

「うん、美味しい。皮はパリッとしているのに中身はもちもち、甘さを抑えたこしあんは滑らかで口の中でとろけるわ。これとみそ汁を合わせても、絶対合うと思う」

「やった! 新メニュー開発。合格点もらえたね」

「ええ、とっても優しい味だわ」

 圭介はそれを聞くや否や京香の隣に滑り込み、素早くその唇を奪った。

 香ばしいパンの香りがキスをさらに甘くする。


「もう、圭介さんたら。一緒に食べましょう。はい、あーん」

「パンだけじゃ嫌だな」

「え?」

「俺は京香トッピングが無いと嫌なんだ」

「京香トッピング?」

「そ。俺のパンを食べて幸せな顔をしている京香風味を添えて食べたい」

「もう、何を言っているんだか」


 真っ赤に頬を染めながら、ちょっと可愛く睨んでくる新妻を見て、圭介は最高に幸せな気持ちになる。

 

 食べてくれる人々を思い浮かべながら、心を込めて作る。食べた人が幸せを感じてくれるような、そんなパンが作りたい。今でもそのコンセプトは変わらない。でも……と圭介は思う。


 最近気づいたことがあるんだ。この世で一番美味しい食事は、誰かと一緒に食べる食事。だから、もう一つ願いを込めて作ることにした。

 

 このパンを一緒に食べる人と出会えますように!


 もしかしたら、お節介で有難迷惑な話かもしれない。そんな相手なんかいなくたって十分幸せだと言われるかもしれない。

 でも、俺はこの幸せを知ってしまったから……

 一人で食べる幸せだけじゃなくて、誰かと食べる幸せも味わって欲しい。一人でも多くの人に。

 だから誰かに持っていってあげたくなるパンを作りたい!

 そんな思いが目標に一つ加わった。


 心の中で誓いながら、圭介はパンじゃなくて、パンの香を宿した京香にかぶりつく。 

 もう俺の舌は、京香トッピングが無いと物足りなくてしかたないんだ。

 

 これは俺だけのスペシャルトッピング。


『最高に幸せな味』を完成させるには、絶対に欠かせないのさ。

                                    

           fin



【作者より】


 長い物語にお付き合いくださいまして、ありがとうございました!

 また二回目にも関わらず足を運んでくださった皆様。本当に感謝です。

 ここに集う登場人物たちは、私にとってとても思い入れのあるキャラばかりなので、またいつか何かの物語を書きたくなってしまうかもしれません。そうなったら、また、こっそりと再開して書き続けるかもしれませんが……

 ひとまず、これにて完結ボタンを押したいと思います。


 たくさんの温かい応援をありがとうございました!

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滝川木工店 〜想い出が生まれ変わる場所〜 改稿版 涼月 @piyotama

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