真夜中の鬼電

脳幹 まこと

真夜中の鬼電


 午前2時の丑三つ時。

 電話機の着信音で目を覚ました。

 寝惚け眼で電話番号を見てみると、相手は友人のケンジのようだ。

 よりにもよってこんな時間に……

 朝になってから改めてかけなおそうと思って放置する。


 一度や二度待てば諦めてくれるだろうと思っていたのだが、ケンジの番号で何度も何度もかけてきた。

 よほどの事態なのだろうか、と思って電話に出てみる。


「はい、もしもし」

「あっ、繋がった。なあなあ聞いてくれよ、さっき仕事でひでー目にあってさあ……」


 ガチャリと切る。

 全然緊急じゃなさそうだ。


 再び電話が鳴る。留守電モードにしてやる。

 すると電話口から


「と゛お゛し゛て゛た゛よ゛お゛お゛お゛!!!!!!!」


 という爆音が聞こえてくる。

 いやがらせにもほどがある。どうしてなのかはこっちが聞きたい。

 その後も、彼の鬼電は続き、留守電の履歴には「と゛お゛し゛て゛た゛よ゛お゛お゛お゛!!!!!!!」が十数件並ぶことになった。

 そろそろ、警察に被害届でも出してやろうか。


 その前に一言申してやろうと思って、留守電モードを解除して、着信を待つ。

 電話が鳴ったのは、五分後だった。

 電話に出てやると、ケンジは涙声でこんなことを言っていた。


「そういう問題ッヒョオッホーーー!! 解決ジダイガダメニ! 俺ハネェ! ブラジルッフンハアァア!! 誰がね゛え! 誰が渡伯ジデモ゛オンナジヤ、オンナジヤ思っでえ!」


 ブラジル? 今、ブラジルって言った?


「ア゛ーア゛ーッハア゛ーーン! 海外出張と!! 貴重な体験だと!! 受け止めて! 1人の大人として社会人として! 折り合いを付けましょうと! コォォヒヒヒイィィィン! そういう意味合いで、ポルトガル語も! 勉強したのに!! 自分としては、何で、実績に基づいてキッチリ進捗報告してんのに、何で自分を曲げないといかんのやと!!!」


「うるせえ!!! 時差考えろバカ!!!!!!」



 それ以降、電話が鳴ることはなかった。

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