第6話 遭遇

人がこの身ひとつで飛ぶのにどれだけの人が思い描き、どれだけの時間を費やしたのだろう。


俺は知らない。


けれど、こうして地面から足が離れるとき少し、ほんの少しだけ分かる。これもだから。



「おー、意外とうまいじゃない。」


足元から声が掛かる。


「そうか?」


「それだけ綺麗にホバリングで止まれるんだから、基本がしっかりしている証拠よ。」


俺としては、慣れない訓練用のギアで悪戦苦闘しているのだが.....。


「それよりとはなんだ?馬鹿にしてるのか?」


少しムスッとして答える。すると、彼女も上がってくる。


「いいえ。訓練用なんか使ってるから初心者かと思って、別に馬鹿にしてる訳じゃないわ。ただ驚いただけよ。」


「そう言うエリーも、さすがだな。」


「当然よ!国防長官の娘だもの....」


今一瞬、悲しそうな眼をした気がした。


『皆さんホバリングは出来たようですね。』


ギアの無線越しに金村先生の声が聞こえる。


『次は、その場で前転をしてみてください。ぶつからないよう気を付けてください?ペアの一人は周りに注意して見てあげてくださいね。』


「それじゃあ、私からやるわね?」


「あぁ」


するとエリーはクルッと綺麗に回って見せる。


「おぉ」


パチパチと手を叩いてやると、気を良くしたのかドヤ顔を見せてくれた。


「さあ、次はあなたよ?光一。」


自分も回ってみる。が、ギアに慣れていないせいか前に移動したのだろう、前転を終えて顔を上げるとエリーの端整な顔が間近にあった。


「まだまだね?♡」


ウインクされ我に返り、慌てて距離をとる。


「す、すまん!このギアにまだ慣れてなくて!」


「あら、ならもっと練習しなくちゃね?」


腕を掴まれそのままゆっくりと移動していく。


「次は低速での飛行だそうよ?」


「あ、あぁなるほど....」


あたふたしている間に先生から次の指示があったようだ。


「あの.....腕、掴まなくても....」


「前転すら上手くできないのに?」


ごもっとも.....。


「安全第一よ。大丈夫、練習すればきっと上手くなるわ。」


「そうですね......」


これは信用されてないな......。


しばらくするとギアに慣れてきたのか、魔力もギアに合わせて調整できるようになった。


「もう慣れたの?飲み込み、早いのね。」


「エリーのおかげだよ。」


「そお?......、それはうれしいわ///」


周りを見ると他の生徒も皆、自由に飛び回っていた。もちろん怪我の無いように。


「ね!向こうでさっちゃん先生が飛行のタイムを計ってくれるみたいよ。一緒にやらない?私、速さには自信があるの!」


「いいねそれ。じゃあ競争しようか。」


「ふふん、負けないわよ!」


二人でスタート位置につく。


上を他生徒が飛んでいく。それに釣られ空を見上げる。


「どうしたの?光一。」


何だあれ......


ギアのズーム機能を使い、よく見る。


"門"から現れた"それ"はこちらを見下げる。


まずい!!


上空に浮かぶ一つの黒い点、そこから"光"が放たれる。


狙いは―――



「避けろ!!!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る