戦地還りのロマン砲

鶉 優

プロローグ

慌ただしく無線が鳴る。


『だれか!救護班!』『第三部隊、ポイントへ移動してください』『このままじゃ持たん!増援を...』


うるさくて耳が痛い。無線を切る。


しかし、うるさい。


遠くから聞こえる連続した爆発音、近くの護衛艦から放たれるミサイルの音。


それらを消すため目を閉じ、集中する。


鼻に来る磯の香りと硝煙の匂い、冷たい潮風に硬い甲板の踏み心地。

そして自分の内にある"力"と向き合う。


『少尉さん、聞こえますか?』


集中してたのに....


「聞こえてます。」


『そろそろ攻撃の準備を———』


「もうやってます。」


『えっ! そ、そうですか.....』


そっちでもモニター出来るはずなのに、抜けてるなぁ....


『総司令が話したいとのことなので繋ぎますね。』


後方とはいえ戦場で話したい事とは何だろうと考えていると、渋声が聞こえてきた。


『......調子はどうだ、少尉。』


「好調です。」


『そうか。少尉、歳は16だったな?』


「はい。もうすぐで17になりますが、なんですか?」


『いや、普通はまだ学生だったなと思ってな。すまんな、不自由で。』


「いえ、これが俺の使命ですから。」


『それでだな、この作戦が終わったら一度普通に暮らしてみると良い。バックアップはしっかりしてやるから、楽しみにしておけ。』


普通に暮らすってどうやって?と聞こうとしたその時、

けたたましいアラームが聞こえてきた。


『なんだ!どうした!』


『敵基地中央に巨大な熱源反応!、巨大なビーム砲と断定!まっすぐこっちを狙ってます!』


『発射までどれくらいだ!』


『熱量の膨張から30秒後と推定!』


今乗ってる空母とその護衛艦たちでは回避できない。地上から破壊しようにも前線は膠着状態、ミサイルも敵基地中心部には対空砲が密集していて無理。


唯一の方法は.....


『味方の退避状況はどうなってる!』


『退避を開始していますが間に合いません!』


『さっさとロマン砲の射線からどかせろ!』


『無理です!』


「総司令、準備はできてます。俺は、撃ちますよ。」


『少尉....、ダメだ。君には荷が重すぎる、君はまだ―—』


「分かってます。けど、今撃たないともっと大きな被害が出るんです。自分たちも死ぬんですよ?」


『私もそれは分かっている!だが....』


言いたいことは分かる。けど、ここで撃たなきゃ.....ここでやらなきゃ......


「なら.....、総司令。一緒に罰を受けてもらえませんか....」


『・・・・・』


『分かった。』


震える手を抑え、トリガーに指を掛ける。


その手に抱えた大砲を仲間の背中に、敵の"顔面"に向ける。


『撃て』


その日、多くの命が一つの島と共に消えた。

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