【KAC20229】猫の手を借りられなかった結果

肥前ロンズ@仮ラベルのためX留守

猫の手を借りられなかった結果

『猫の手を借りた結果』。


 時刻は2022年3月24日22時3分。私はようやくパソコンを開き、文章を書き始めた。

 と言うのも、いよいよネタが思いつかず、締め切りだけが刻々と迫る中、とりあえずパソコンを開こうと決心した時、ヤツが現れたのである。


 そう、我が愛犬である。


 愛犬は、コタツの上でパソコンを開き、作業をしようと思った私の左側に寄って来て、どてっとお腹を見せて寝転がった。

 長ーいお腹をみせ、前足を手羽先のように曲げ、後ろ足を広々と伸ばしついでに私の太ももを蹴飛ばす。「撫でろ」ポーズである。

 こうなると大変だ。我が愛犬は私が撫でない限り、あらゆる手を使う。


 ある時は長くとがった鼻先で私の手を押し上げ、撫でさせたい部位に誘導させる。

 またある時は膝の上に座り、頭を私の鼻先にまで近づかせ、パソコンの画面が見えなくなるよう邪魔をする(座高が高いのだこの犬)。

 またある時は、強硬手段として「うー」とうなり、コタツの布団を引っ掻いたりして暴れ始める。お前は猫か。


 こんなに「撫でろ」と人間様に命令する犬が、果たしてこの世の中に何匹いるのだろうか。

 話が逸れたが、ゆえに私は今、右手でタイピングをしながら今このお題に取り組み、左手で我が愛犬のお腹を撫でている。



 そう。右手だけでタイピング出来るのだ、私は。



 これを言ったり、または私のタイピングする様子を見ていた人は、必ず驚く。曰く、「え、逆に難しくない?」あるいは、「右手でするスピードじゃねえ」と。


「何で両手使わないの?」


 そのごくまっとうな質問に、私は満足に答えることが出来ない。

 ただ思い当たる節と言えば、まず私は幼少期の頃からパソコンで小説を書いていたからだろう。独学でパソコンを学んでいた私。正しいフォームなんざ知ったこったねえ、やりやすいようにやっていた結果、両手でやるより右手でやる方が速くなったのである。

 または、大学のレポートを書く際、左手で参考文献の本を持って右手で打ち込んでいた時代が長かったこともあるだろう。なんにせよ、スピードだけなら両手に負けない。ただミスることも多いので、あまり他人に推奨はしない。あ、今我が愛犬が、私の左手から離れて立ち去った。ながら撫でするな、真面目に撫でないなら用はないってか。


 そんなわけで、『猫の手を借りた結果』ならぬ、『犬に手を貸した結果』のエッセイが出来ました。まる。

 え、「これじゃお題達成は出来てない」? あと読者様は「犬よりも猫派」?

 仕方ない。既に600字は達成されているが、読者様の希望にこたえて、これから本編を始めようと思う。


   ■


 夕日が落ちる寸前の家の帰り道。

 ああ、今日も怒られた。私って本当に要領悪い。どうして言われたことが、すぐに出来ないんだろう。

 住宅街の細い道をとぼとぼ歩きながら、どこかでカレーの匂いがした。ああ、お腹すいたなあ。今日はカレーにしようかな。

 高い塀の傍をあるく。ふと、頭上から黒い影が見えた。

 黄昏時のちょっとの不気味さにびくっとなり、恐る恐るその正体を確かめる。


 そこには、二本足で立つ、エプロン姿の猫がいた。

 オレンジ色のエプロンには、『家事手伝いサービス 猫の手を借りたい』がロゴマークとして印刷されている。

 猫は前足を胸に添え、恭しくおじぎした。


『こんばんわ、よかったらわたしがお料理を作りましょうか』


 私はビックリして、



   ■



 あ、こら! 私がパソコンに集中してるからってスリッパをニャンニャンするんじゃありません!

 うーって唸るな飼い主に牙を剥くな! それお前のじゃねぇんだよ! 人の目が届かないとすぐ悪さするよなお前!! 分かっててやってるからタチが悪い!

 こーなりゃエサで注意を逸らしてスリッパから口を離させるしかない! ほーらエサだよ!

 あ、すぐ寄ってきた! うわー、おすわりしやがったコイツ。一心不乱にエサだけを見上げてるわー。


 私と我が愛犬には、飼い犬への信頼と飼い主への忠誠がない。

 それぞれエサに信頼を持ち、忠誠を誓っている。

 え、犬をエサで釣るな、躾がなってない? それベトナムの友達にも叱られたわわっはっは!


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