最終話 知己朋友

 陽の光が差し込み、清々しい朝。朝餉あと雲嵐は天籟に呼ばれ執務室に入った。娟娟えんえんと宦官の捧日、武官がズラリと並んでいた。


「うむ。大儀であったぞ雲嵐殿」


 執務室に座る麗しの皇帝である天籟に、雲嵐は跪いて恭しく揖礼をした。天籟は夕餉に毒が盛られていたが食べておらず、犯人をあぶりだすため、一芝居打ったのだった。


「微力ながらお役に立てて光栄です」


 しばらくして、天籟に案内され雲嵐は庭に出た。


「しかし呪詛とは……。しかも内に秘めた邪心を増幅させることができるのは……。呪詛使いでもいたのか。怪しいやつといえば、この前、出禁にした真心華教の教祖だが……」

「雲霧じーさんの話じゃー。教祖は今、国に滞在しているという噂をきいているぜ」

「そうか――。緋国とは我が国と火種はあるが、今は小康状態だ。文を送っておこう」


「短い間だったけど、主上のことを守れてよかったぜ。それにしても、白家はなんであんなに山の民を敵視しているんだ?」


「ああ、そうだな。二千年前、白家は始皇帝の血筋である月の氏族と、因縁があったようだ。その遥かむかし、白家と非常に仲の良い黒家があった。五大世家は(李黄家、柳家、紅家、紫家)だが。以前、紫家ではなく黒家だったんだ。黒家は反旗を翻したため月の氏族に滅ぼされたと伝え聞く――。母方が白家である高衢王の手には呪いの刻印があった。不思議なことにその刻印は男が生まれると浮き出てくるそうだ。詳細は白家当主に聞かないとわからないな」

「……」



「ところで雲嵐、そのー……。実は話がある」

「?」

 顔は真っ赤、照れながら、長い髪をなびかせ美しい皇帝がもじもじしている。潤んだ瞳でこちらを見つめてきた。


(これが、女人なら愛の告白ってやつか⁉ いくらこの国を統べる天子であっても、おらは男にキョーミないんだが、断ると不敬罪かよ⁉)


 長い沈黙のあと、思い詰めたように天籟はようやく話し出す。


「ううう、雲嵐! 朕の臣下になってほしい!」

「えええええーそっちか」

「他に何の話だと――?」

 二人は顔を見合わせた。


「おらが――主上の?」


 一人で詩や絵を描く姿が浮かんだ……。


(皇帝は孤独な仕事だ……。敵も多い。捧日さま一人では守り切れぬか。皇帝の継続が国の安定に繋がる。だがしかし)


「すげー話だが、それは、断る!」

「雲嵐……」

「おらの夢は山の民のおさになることだ。月の氏族や水や風の部族。色んな部族をとりまとめる総長にな。二千年前の、なんの因縁か呪いか知らねえが山の民だからってまた白家に迫害されたくない。いつか燿国と対等になれるぐれぇ立派な長になるつもりだ。だから臣下にはなれない」


「そうか、とても残念だ……」

 天籟は痛々しいほど感嘆した。


「だが、おらはおめーのことを知己朋友だと思っている。何かあれば真っ先に飛んで行くさ。今回みたいに、な」

 雲嵐はふっと笑って拳を掲げる。


「雲嵐、大好きだ!」

 天籟は雲嵐に思いっきり抱きついた。


(うおおおい。男の友情。そこは拳と拳で合わせるだろうが! 抱擁って乙女かよ。しかし天籟は女みてーな甘い香りだな。いかん。ヤバい世界に引き込まれる。おらは女人が好きだ!)


 気がつくと月鈴ユーリンと侍女の詩夏シーシが木々の陰から温かい目で見守っていた。雲嵐は誤解されたと思い、天を仰いだ。



 ***



 ――その後、鳥の部族、雲霧うんむが年齢を理由におさを引退して、「長になったぜ」と相変わらずの野性的な風貌で雲嵐は紫微星城に現れた。突然の訪問にもかかわらず主上が喜んで招き入れた。


 〈帝の女〉だった侍女たちも恋愛は自由と変わったので、後宮に行く度、雲嵐は月妃付き侍女の詩夏シーシを口説いてはフラれる――と宦官日誌に記された。





  番外編  山の民  完





 ※真心華教とはいったい何者なのか。この続きは焔と風の緋国後宮の方で、書いていこうと思います。 稚拙な小説をお読みいただきありがとうございました(*- -)(*_ _)ペコリ

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後宮の月恋歌 ~鷹使い宮女と美貌の皇子の因縁が再び動き出す~ 青木桃子 @etsuko15

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