第5話
「なあ、良美ちゃん。今、パパとお母ちゃんとうちの三人で、色んなもんを整理してて……それでな、台所にあった古い脚立をな、捨てるもんのほうにいれたらな、お母ちゃん、何て言うたと思う?」
「さあ……それは捨てへんて?」
「その通りや。だめ、それは捨てないの!……やって……なんでやと思う?」
「なんでや?」
「結婚してすぐのころ、おばあちゃんがお母ちゃんのために用意したもんなんやて。うちのお母ちゃん、背え低いさかいて、おばあちゃんが言うて、脚立をこうたらしいわ。背えが低いは、一言余計やて、お母ちゃんは思うたんやけど、お嫁にきたばっかりの時の心遣いて、嬉しいもんやて、お母ちゃんが言うてな。古い脚立はお母ちゃんの相棒なんやて。私、びっくりしたわ。面白いことに、それを聞いて、パパがお目々、ウルウルやねん。」
「美紀ちゃん、ちょっと待ちいな。本来、お母さんの相棒ていうたら、お父さんやないの?それ、喜ぶとこかいな?お父さん、古い脚立に負けてるがな。」
「良美ちゃん、パパはそれでええのとちゃうやろか?お母ちゃんが、おばあちゃんのこと、毛嫌いしてるわけやないてわかったんやし……」
「まあな、嫁と姑は天敵やて言う人いるけど、そんな、単純なもんでもないな。うちのお母ちゃんとおばあちゃんのこと、ずっと見てきたけど、二人にしかわからへん絆みたいなもんがあるように思うわ。にらみ合いしたり、言い合いしたり……せやけど、そのうち、また、喋ってはった。お互い、ごめんとは言わへんかったけど、たいていは、おばあちゃんが、買い物行こかとか、お茶飲もうとか話しかけて、その時は必ずお母ちゃん、つきおうてたわ。今から思うと、お互い、仲直りの合図やったんやろな。お母ちゃんもおばあちゃんも偉いと思うけど、うちは結婚する気にならへんわ。なんや、する前からしんどうて……」
「うちもやで。なあ、良美ちゃん、お互い、落ち着いたら、二人で旅行でもしよか?ここ何年か、おじいちゃん、おばあちゃん見送って、親に気いつこうて、うちらにも休養が必要や。」
「せやな。美紀ちゃん、うち、温泉はいりたい。」
「二人同時に休めるやろか?」
「ええやん。しれっと休暇取ろうや。」
完
母の相棒 簪ぴあの @kanzashipiano
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