あなたがあなたであるということ

『その人の値打ち』と言うと、たとえば
 人を楽しませる話ができる、とか、仕事が早くて丁寧、とか、料理が上手、とか、生きるための知識が豊富とか……どこかで『社会的な有用性』に結びついてしまう。
 それは太古の昔から、人間社会において『その人の値打ち』として流通してきたものだ。
 社会が高度化するに随って、「財産をたくさん持っている」とか「身分が高い」などの値打ちが加わったかも知れないが、それもまた『社会的な有用性』のうちだと考えられる。
 しかし、あるとき、人はものすごい発見をした。と、いうよりは、発想をおおきく転換した。
『基本的人権』
 人は、『あなたがあなたである』そのことに不動の価値がある、ということを社会の前提条件にしよう、としたのだ。
 『社会的な有用性』など、この価値の、その次の話である。

 作者の恐竜を題名に冠したシリーズは、ともすれば『あなたがあなたである』ということを否定してしまう社会の在り方を冷静な筆致で提示しつつ、祈るように、つねに、だれもが持っている『値打ち』があることを真摯に訴えている、そう思う。