閉じた楽園から去るときに

 主人公は母親と暮らしていたが、その母の再婚と、あたらしい父親とのあいだにできた子供の存在によって、言いようのない空白を抱えている。

 物質的には今の方が幸せで、両親は彼を阻害していない。
 ただ、母と息子、ふたりで過ごしていた時間よりは、どことなく、なにかが物足りない。
 読者からすれば、母息子のふたり暮らしの「近さ」は、人間関係としては不健全のように映るのだが、たしかにその関係は充実し、このうえなく充たされて感じられていただろうことも想到できる。

 でも、みんな変わりゆくのだ。
 変わらないものなどない。

 母親が違う人間関係を結び合ったように、主人公もまた、あたらしい関係へ、別の場所へと進もうとする、そんな物語に感じられた。