ブラックドック
洞貝 渉
ブラックドック
わたしは生涯、あの頼もしい背中を決して忘れはしないだろう。
運悪くも、意地悪な人たちにいじめられてしまった。
わたしはまだ体も小さく、ひ弱で、声もまともに出せないくらいに衰弱していた。意地悪な人たちはそんなわたしに罵声を浴びせ、靴で小突き、石を投げ、わたしの怯える様子を見てゲラゲラと笑う。
頭の中が真っ白になって、ああもう駄目だと思ったその時、あの子が来た。
あの子は自分よりも数が多くて、自分よりも大きい相手に対し、ひるむことなくたった一人で立ち向かってわたしのことを助けてくれた。
もう大丈夫、そう言って、あの子はわたしを抱き上げ、わたしをあの子の家族にしてくれた。
わたしは生涯、あの頼もしい背中を決して忘れはしないだろう。
あの子もわたしも時を経て、大きくなった。
大きく、力強く、そして良き友になった。
今のわたしはたぶん、あの時のあの子よりも何倍も大きく、強いことだろう。
それでも、わたしにとってあの頼もしい背中は何物にも代えられない。
わたしにとってあの背中は、あの子は、いつまで経っても色あせない、わたしだけのヒーローなのだ。
それからさらに時間が経ち、わたしは肉体を失う。
あの子も弱り、あまり動かなくなり、じきに冷たい土の下で眠るようになった。
わたしはあの子の目印にある大きな石の隣で、昔のように番犬の務めを果たす。
場を荒らす人たちにこの黒々とした姿をさらして威嚇し、悪いものを運んでくる人ではないモノは食い破り、時に炎を浴びせて蹴散らしてやる。
わたしだけの、ちょっと寝坊助なヒーロー。
今度はわたしが、肉体があった頃とは比べ物にならないくらいに大きく強くなったわたしの背中を見せて、あの子の、あの子だけのヒーローになるんだ。
ブラックドック 洞貝 渉 @horagai
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