ドライフラワー

美澄 そら

第1話


 一面砂ばかりの世界で、アザレアは自身よりも大きなバイクを駆っていた。

 バイクは砂の上でも楽々と走れるように改造されていて、後輪が音を立てて砂を巻き上げながら軌跡を残していく。

 数メートル後ろには、小さな山が彼女を追いかけて動いている。

 アザレアはバイクを器用に右へ左へと操作し、飲み込まれないように上手くそれから逃れていた。

 いつまでも追いかけっこをしている訳にはいかない。

 アザレアは手榴弾を後方に投げ捨てると、一気にバイクを加速させる。

 小さな爆発。

 そして、金切り声とともに巨大なドラゴンが首をもたげた。痛みに暴れる竜。

 アザレアはボーガンを取り出し、動き回る竜の首元に標準を合わせて放つと、ワイヤー付きのナイフが竜目掛けて飛んでいく。

 ガチン。

 顎の下辺りにナイフが突き刺さり、アザレアはワイヤーをしっかり腕に巻きつけて、竜が大きく首を振ったのに合わせて跳んだ。

 そして、体を反転させて竜の背に跨ると、その硬い鱗に覆われた背に口付ける。


「ごめんね」


 腰に差していた二本の剣を鞘から抜くと、二つを重ねて鋏の形へと変える。

 そして、アザレアは竜の首を鋏で斬り落とした。

 竜の首は、体は、たちまち鮮やかな花へ変わり、砂の上を染めて――そしてその花は色を奪われてしまったかのように砂の色へと変わっていった。


 アザレアは掛けていたゴーグルを外し、竜だった花をすくい上げて一輪一輪丁寧に束ねると、愛しそうに口付けた。


 かつて緑に覆われていた世界の片鱗。

 今はどこにも鮮やかな花なんて存在しない。

 アザレアは砂の世界を見渡して、小さく笑った。


 ――いつか、この砂の世界に。

 

 その日が来るまで、自分は狩りを辞めない。



 おわり。


 

 

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