空き教室、顔のない迷子

作者 一初ゆずこ

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★★★ Excellent!!!

主人公の『僕』は、空き教室の机に落書きを見つけます。それは傷痕と呼ぶべき、悲しい言葉。
『僕』は答える。その悲しみを包み込むように。
落書きの主は『僕』について尋ね、『僕』は『彼女』のことを聞く。
姿の見えないまま、気持ちを交換し合った先は……。

というのが、物語前半のあらましです。そうこれは、およそ八百文字で綴られた、とても短いお話。
姿が見えないだけに『僕』がなにを告げようと、嘘か本当か『彼女』には分かりません。
もちろん反対も然り。

でもきっと、二人は互いに夢を膨らませたでしょう。深く知り合ううち、きっとこんな相手なら、素敵な人と思ってもらえる。そんなことを思ったかもしれません。
でもいつか『僕』は、それが幻想で固められた舞台だったことに気づきます。

そんな『僕』に、『彼女』はまた虚像の自分を見せる。果たして『僕』はどうするのか。エンディングのあと、二人の未来がどうなるかは読者のみぞ知るです。

振り返れば誰しもそんなことがあったような、少し苦い錆色の記憶。
きゅんと。と言うには少し締め付けの強い切なさを胸に残す、それでいて心を満たしてくれるお話でした。

★★★ Excellent!!!

わずか803文字。その中に、青春の1ページ、もしくは要素としてのジュブナイルがギュッと凝縮されている。あなたの中に感性はあるか。あなたの中に青春時代の理想があるか。803文字の渾身のストレート(大砲)が読者の心に会心の一撃を与える。
この作品に心を揺さぶられない書き手は疲れているか、書く資格がないかの二択だ。それほどの衝撃をこの作品から受けた。

★★★ Excellent!!!

 始まりはある昼休みの事。
 人に酔って、迷子のように歩く主人公が導かれるように入ったのはひとつの空き教室。
 彼はその机に傷痕のように残された一文を見つけてしまう。そこから始まったのは、奇妙な交換日記で……。

 ここにはひとつの出会いと別れ、そしてひとつの季節がまるごと詰まっている。
 その季節の終わり、彼の嘘が最後に導くものは一体——?

 800文字という字数の中で描かれたとは思えないほどの、しっとりと心に響く物語です。