しごおわ、焼き鳥、堕天待ったなし
安崎依代@『比翼は連理を望まない』発売!
主よ、罪深き我らを赦し給え
「我らが主よ、罪深き我らをお赦しください」
「……いや」
俺は目の前に並んだ料理と真剣に祈りを捧げる相方にドン引きの顔を向けた。
「これは、許されないのでは?」
いや、だって、共食いじゃね?
俺達『天使』が焼き鳥食べるなんて。
「ちょっとマーカス! 共食いって、私達を鳥類扱いするつもりですか!?」
「いや、一緒のようなもんだろ。背中に似たような羽背負ってるわけだし」
「本体部分は人類ですよ! 私達は!!」
俺達の目の前には大皿に盛られた各種焼き鳥。もも、むね、ささみ、ねぎま、つくね、各種塩・タレ数本ずつ。運ばれてきた時にどれがどれだと目の前の相方が懇切丁寧に説明してくれたが、残念なことに俺には塩かタレかということと、ねぎまとつくね、その他肉、という見分けしかつけれていない。
いや? だってね? 思わないじゃんね?
ちょっと大きな仕事のために相方とともに人間界に降臨して、仕事無事に終わった〜! と思ったら相方に真剣な顔で『行きたい場所があるんです』と切り出されて、んじゃ行こか〜と気軽な気持ちで着いて行ったら焼き鳥屋に連れて行かれるなんてよ。
てかそもそも俺達的に殺生そのものがどうなん?
「うるさいですよ。戒律的に天使が焼き鳥食べられないと言うならば、私はいっそ堕天します」
「何をお前は思い切ったことを……」
「知ってますよ。マーカス、あなた人間界に降臨するたびに○スド買い食いしてるでしょ」
「ぬぐっ!」
「あなただってミ○ドを戒律で禁止されたら、堕天もしたくなるでしょう?」
……まぁ、それを引き合いに出されると、……なぁ?
「さぁ、マーカス。私と共犯になりましょう?」
相方は焼き鳥の串を両手に持つとフフフッと嬉しそうに笑った。中性的な美貌が心底嬉しそうにほころぶ様はまさに天使のようで……って、こいつは正真正銘天使だし、俺達天使はマジで無性別なんだがな。
「この後一緒にミス○で買い食いしてあげますから」
「よしきた」
その言葉に俺は最後の躊躇いを捨てると、塩ねぎまの串にかじりついた。フフフッとさらに笑みを深めた相方も手元の串にかじりつく。
ふっかふかの肉。炙られて甘みを帯びたネギ。塩というシンプルな味付け。
分かってはいたが、これは……
「ルチル」
「どうしましたか?」
「……ヒトというものは、実に罪な物を作り出すものだな」
「フフフッ、ビールもいっときます?」
「ここまできたら、とことんいこうじゃないか」
俺の言葉にさらにフフフッと笑みを深めた相方が、机の端に置いてあった端末から追加注文を飛ばす。俺は人間界に溶け込むために首に締めていたネクタイを緩めると2本目の串に手を伸ばした。
「戒律に反するってなったら、二人揃って堕天するか」
「フフフッ、マーカスと一緒なら、それも楽しいかもしれませんね」
そんな半ば本気の冗談を口にしながら、俺達は天使らしくなく、『食』という束の間の快楽に身を投じたのであった。
【END】
しごおわ、焼き鳥、堕天待ったなし 安崎依代@『比翼は連理を望まない』発売! @Iyo_Anzaki
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