ラブ米!!

安崎依代@『比翼は連理を望まない』発売!

パン派筆頭の私が恋に落ちたのは、白米がこの上なく似合う白米党の彼でした

 その日、私は出会ったの。


「いっけなぁ〜い! 遅刻遅刻ぅ〜!!」


『パン派筆頭』の名に恥じず、ジャムトーストを口にくわえて走っていた、新学期の朝。


「うぉっ!?」

「きゃあっ!!」


 セオリー通りにぶつかったわ、塀で囲まれた四つ角の出合い頭。


「いったぁ〜い!」

「す、すまない……急いでいて、前を見ておらなんだ」


 尻もちをついた私に手を差し伸べてくれたのは……


「怪我はされておらんか?」


 口元の白米もまぶしい、どんぶり飯が良く似合う、王子様だったの……!!




「いや、まぁ〜ったく分からんから!」


 ちょっとぉ〜? 私の幸せな回想タイム、邪魔しないでくれませ〜ん?


「いや、だって意味が分からんもん」

「そうよね……。シャレオツパン派筆頭のこの私が、白米党の彼に一目惚れだなんて……」

「いや、あんたが新学期早々寝坊してトーストくわえて走ってる意味も分からなければ、相手の……米田こめだ君? が、どんぶりに白米モリモリの状態で飯食いながら走ってた意味も分かんないんだけども」


 何っでそこを分かってくれないのよ明美あけみ! 朝はパン一択でしょ!?


「いや、そこではなく、くわえて走ってる意味が分からないんだってば」


 私は冷静なツッコミばかりを繰り出す友人を前に思わず机に突っ伏した。


 相談したいのはそこじゃないんだってばぁ〜……


「はいはい。で? 『もっとお近づきになるにはどうすればいいのか』……だっけ?」

「そう! 毎朝ぶつかる以外のアプローチをそろそろ考えたくて……」

「待って? まさか出会ってから毎日ぶつかりに行ってるの?」

「だって他にどうやって声をかけたらいいのか分かんないんだもぉ〜ん!」

「バカか?」

「そろそろトーストに塗るジャムを変える以外のアプローチの方法を考えたくて……」

「いや、ぶつからずに話しかけに行けよ、同じクラスなんだから」


 明美は冷静な顔を私に向けたまま、指先で教室の角を指さした。


 あぁ……! 顔を向けなくても分かってる! その先には米田君がいて、今もマイどんぶりでモリモリと白米を食べているって! あの硬派な体つきで、どんぶりから無限に湧いてるとしか思えないくらいの量の白米を、エンドレスでモリモリしてるって!


 キャーッ!! 今日も口元についた白米の粒が素敵ぃっ!! むしろその米粒に私はなりたい……!!


 おぉ、米田よ米田……あなたはどうして白米党なの? あなたがパン派なら、こんな不器用なことをしないで話しかけに行けるのに……!!


「いや、そこパン派と米派、関係ないから」

「何言ってんのよ明美! パン派と白米党が相容れることなんてないのよ!!」


 あぁ、でもあなたに話しかけたいの。この垣根を超えて。……あぁ、どうしてこんなに胸が苦しいのかしら……?


「毎日ぶつかりすぎて肋骨逝ったんじゃね?」


 ま! 失礼な!


 パンにセットで毎日牛乳も飲んでるんだから、私の骨密度は安泰よ!


「そういや知ってるかい? パン派筆頭」


 ついに明美は私の話をまともに取り合わずにスマホをいじり始めた。


 失礼な! って思っていたら、明美はその画面を私に差し出す。


「今どきは、お米でパンが作れるんだぜ?」


 その画面には『今話題の米粉パン!』という文字が躍っていた。


 え……? ご飯でパンが、作れ、る……? 永久に相容れられないと思っていたパン派と白米党が、こんな形で手を取り合えるというの……?


「パン派と白米党が相容れられないなんて、古い古い」


 明美はニヤリと笑うと私の手からスマホを回収していった。


「ま、オシアワセに?」


 その言葉に感激で打ち震えた私は、ガタッと席を立つと駆け出した。


「私、米粉パン買ってくる!」

「ちょっ、今から授業ですけど!?」


 友よ、恋を前に、人は無力なのです。


 私は恋のキューピッド・米粉パンを求めて、授業開始のチャイムが鳴る学校を走り抜けたのだった。



【END】

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ラブ米!! 安崎依代@『比翼は連理を望まない』発売! @Iyo_Anzaki

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