【KAC20224】コントー何も無い県・SAGAー

コント チャット

『そういや、こないだ佐賀から来た人にあったけど、お前みたいに佐賀のことばっか喋ってたわ。佐賀人って皆佐賀のことばっか喋るな』

「いや別に俺ら佐賀のことばっか喋ってねえよ？」

　ネットで出会った東京在住の友人が、チャットでそう書き込んでいた。俺は思わず口でツッコみを入れた。

　というかお前、人生で何人の佐賀人に出会ったって言うんだ。そんなに割合ねぇだろ佐賀人。佐賀県の総人口、横浜市の3分の1もいねえんだぞ。

「ちなみに、何話してたんだ……っと」

『米の話。佐賀の米が食べたいって』

　あー、と俺は呟く。確かにね。東京に引越した兄貴も結構言ってるわ。

　母さん曰く、昔は特に美味くなかったらしいけど、今じゃ『さがびより』は特Aランク。東日本大震災で福島から佐賀に避難してきた人が、「佐賀の米美味しい！　安い！　え、佐賀には何もない⁉　米がある！　トイレットペーパーが安い！　物価やっす！　サイッコー‼（作者の実話）」って言ってくれたのが懐かしい。

「メシは美味いからな」

『でも畑と田んぼ以外何も無いんでしょう？』

「通販かよ」

「でもお高いんでしょう？」のノリで聞くんじゃねえ。あとあるわ。それ以外にも。娯楽施設がないだけで。

「吉野ケ里遺跡とか、伊万里・有田焼とか、色々あるっての」

『え、伊万里焼って長崎じゃないの？』

「それ波佐見ぃ‼」

　ダンッ！　と、エンターキーを叩きつける。

　いや、気持ちはわかるんだけどね。そもそも伊万里焼って言うのは、伊万里湾から出荷された焼き物全般のことを指すから（古伊万里とも言う）、波佐見焼も伊万里焼の枠組みに入っていた時期は長いんだけどさ。

　伊万里・有田焼をとったら、佐賀に何が残るって言うんだ‼（前言との矛盾）

「待て待て待て！　伊万里焼すら佐賀じゃないなら、お前にとって佐賀はどんなイメージなんだ！」

『え、あれでしょ？　SAGA佐賀～の人』

「せめて『はなわ』って言え‼」

　再びエンターキーを叩きつける。

『あと、琵琶湖がない方』

「佐賀に限らず滋賀以外にはねえよ！　あと琵琶湖が無くても海があるわ二つも‼　有明海と玄界灘があるわ‼　ムツゴロウ居るわ！」

『聖地らしいけど、ゾンビランドサガもユーリ!!! on ICEも見てないしな～』

「見ろやゾンサガ！　俺は純愛推しです！」

　極めて私的な事情（推し）を込めたリプライ。ユーリに関しては何でフィギュアで佐賀だったんだろうね。佐賀にアイススケート出来る場所ないのに。

『あ、サガン鳥栖あるよね』

「ああ……うん……そうだな……」

　俺はすごく返信に悩んだ。

　……鳥栖って、自分たちのこと『福岡県側』だと思っているからな。それはさっき挙げたアニメ聖地である唐津もなんだけど。

『それから、拳銃ぶっ放すイメージがある』

「ちくしょうなんも言い返せねえ」

　パソコン画面から目を逸らし、俺は顔を両手で覆う。田舎のくせに物騒な事件が起こるんだよ佐賀。何でそういう事件ばっか全国放送で流すんだよ。

『うーん、佐賀って他に何かないの？』

「……まあ、語るとすりゃ、歴史ばっかだけど」

　遺跡とか古墳とか。でも地味だな。一番挙げられるとするなら、幕末・明治維新だけど。でも佐賀の七賢人とか言っても分からんわな。

「大隈重信は、佐賀出身だぞ……っと」

『へー、慶應作った人かあ』

「こいつ大丈夫か？？？」

　慶應作ったのは福沢諭吉なんだけど。大隈さんと仲良かったらしいけどさ。

「あ、確かに田んぼ以外なんもねーけど、だからこそバルーン大会が開かれてるぞ。アジア最大の国際大会で、この時ばっかりは佐賀駅もめっちゃ混む。会場はもっとヤバイくらい混む」

『あ、聞いたことある。へー、そんなに大きいんだ』

「あんまりにも混む上に、天気によっては飛べない日もあるからな。有給とって会場でテント張って寝泊まりする人もいる」

　並ぶ屋台。国籍問わない人々。寒い空気の中、ゆらめくガスバーナーの火。そして真っ青な空に、赤、オレンジ、青、白、カラフルな色のバルーンが飛ぶ。

　そこで少し考えて、俺は続けた。

「お前もいつか来いよ。そん時は泊めてやんよ」

　何もないけどな、と笑いながら返信を待つ。

　コイツとはカメラ越しで話したことはあっても、リアルで一度も会ったことはない。でも悪いやつじゃないのは長年の付き合いでわかる。コイツなら、そういうこともやって楽しいかもしれない。まあ、こういうネットでの「来いよ」って、中々本気にはなれないけど……。

　30秒後、ピロンと通知が来る。そして届いたコメントは。

『えー。でも佐賀遠すぎるー。長崎までは何とか行ったけど。佐賀は遠い』

「お前佐賀がどこにあんのかわかってんの⁉」

　　　　　　　　　―おわり―