堅実な文章は重ね厚き刃、軽快に進む物語は神速の剣技のよう
- ★★ Very Good!!
人里離れた山で暮らす少年鍛冶屋ロルフ・バウアーのもとに、ある日『白銀』の剣士ヴァルター・ユングが訪れる。ロルフの正体が70歳を超える『精霊鍛冶師』アウレール・シュミットであると知っているヴァルターは、ロルフに最強の武具を作らせるため、隷属の首輪を嵌めて自らの所有物としてしまう。
王国最強の剣闘士であった『剣王』ゲオルク・シュナイダーへのリベンジを誓うヴァルターと、どうにかしてこの状況から抜け出そうとするロルフことアウレール。奇妙な二人の旅は、一体どこへ向かうのか――。
一章まで読了しました。
それぞれに秘密や重い過去を抱えた鍛冶屋と剣士、時に対立し時に助け合うそんな二人の旅路が、巧みな文章で綴られた力作だと思います。田舎から都市へと向かう旅の、その出発や道中や街に到着してからも、風景やそこに息づく人々の生活というものが、ハッキリと脳裏に浮かんでくるような描写力でした。
少年に見えて実は老成しているロルフ、冷たい氷のような印象を与えるが食事の注文すらマトモにできないヴァルターなど、キャラ造形という部分でもそれぞれに個性があって印象に残ります。
戦闘シーンに関しては言うまでもなくスピード感と迫力に溢れており、加えてヴァルターの艶やかさや、そんな彼に見惚れるお嬢さんなど、細かい部分まで丁寧に作り込み、それらを文章として十二分に表現している点が実にお見事でした。
作者さんは改稿を考えていらっしゃるとのことでしたが、『ロルフ視点で語られる一人称小説』という部分をもう少しだけ強く意識し、「初見の人にも分かりやすく」と注意すれば良いだけで、文章において大幅な修正は必要ないと個人的には思います。
それほどまでに、個性と丁寧さに溢れた文章だと感じました。高い水準の文章力で綴られた物語を読みたい人には、オススメの一作です。
ただ、ブロマンス系の作品に馴染みがない人に対しては、あまり強くはオススメできないかもしれません。
直接的な描写があるわけではないものの、ロルフが『そういう目』で見られたり、『所有物』ということで示唆する発言も多く、苦手な人でも楽しめる……とまでは言い切れないですね。別に気にしないという読者であれば、高い実力で描かれたストーリーを存分に楽しんで欲しいです。
しかしもう一点気になったのは、物語の『手段』や『目的』が明確になり過ぎているという部分です。
何故ヴァルターはロルフに武器を作らせようとしているのか、死んだはずなのにどうして生き返ったのか、ロルフは何故見た目が若いのか、どうすれば隷属の状態から抜け出せるのか、ゲオルクを含めた三人の過去に何があったのか――それらの『引き』の大部分が、一章の時点でかなり説明されてしまっています。
例えば脱獄モノであれば脱出不可能な檻からどうやって抜け出すのか、ゾンビものであれば絶望的な状況からどんな方法で生き残るのか、侵略者と戦うSFなら正体不明の敵の目的はどこにあり、対抗策はあるのか――などといった部分で続きが気になって仕方なくなります。
ですが本作においては『最強の武器でゲオルクを倒す』というヴァルターの目的と手段、『ヴァルターの望む武器を製作し、解放してもらう』というロルフの目的と手段がハッキリし過ぎています(現時点のロルフにとっては承服できない手段ですが)。
もちろん一章以降も様々な展開や謎や伏線や予想外の出来事はあるのでしょうけれど……作品の根幹部分がネタバレしているようなもので、「クライマックスまで目が離せない」「何が起こるか分からず続きが気になる」「彼らの目指すモノは一体どこにあるのだろうか」という要素やワクワク感が、やや欠けている印象を抱きました。
とはいえ、一章ラストの展開は熱さと説得力があって非常に盛り上がり、今後もこうした活躍シーンや見せ場があるのであれば、最終的に高い評価を得る作品になると思います。実力は申し分ないので、その高い筆致で綴られる物語に期待が持てます。