大人とこども
鯨ヶ岬勇士
大人とこども
「あの人はね、凄いんだよ! 配信もすっごく面白いし、投稿する動画も、この前出したシングルだって——」
「そうか、それは素晴らしいね」
そう語る少女に、青年はただただうなづく。彼女はおそらく中学生ぐらいだろうか。今どきの子どもは大人っぽいせいか、中学生と高校生はおろか、大人なのかどうかも見分けがつかないときがある。
しかし、今回は小柄な体格に伸ばしたままで染められたりしていない黒髪に不慣れなメイク、地元でも有名な私立中高一貫校の制服を着ていることも含め、彼女は大人っぽくても未成年であることだけは明らかだ。
「君は彼を、ええっと。『じぇふりん』を応援しているんだね」
「そうじゃない! 私にとってじぇふりんは推しなの!」
青年は手元の資料に目を通し、何枚か捲ってからそれにまたうなづいた。
「そうか、推しか。わかった」
二人の間を挟むのは机だけではなく、ジェネレーションギャップもあった。少女は誇らしげに背筋を伸ばし、そうすると彼女が腰掛ける安っぽい椅子が悲鳴を上げた。
「『彼を愛している』と『彼のためならなんだってできる』と、そう言ったんだね?」
少女は大きくうなずくと、また誇らしげな笑顔を浮かべた。それを見ると青年は悲しいような、寂しいような顔をする。
「そうだね。この続きはまた後にしようか」
そう言って青年は椅子を引き、彼女の元から立ち去った。
***
「それで先輩、『じぇふりん』の方はなんて言ってます?」
青年は中年の男に尋ねた。二人とも苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「あいつはびくびくしながら弁護士を待ってるよ。もう少し突いたら、すぐにでも吐きそうだ。まったく、今どきのアイドルは小児性愛者しかいないのかね」
「先輩の時代のミュージシャンでも12歳の女の子とヤった奴がいましたよ」
中年の男はもっと眉間に皺を寄せて、青年に少女の様子を訪ねる。青年は少女が心酔していると告げると、少女に関する資料を手渡した。
「彼女はだいぶ大人っぽいが、俺にも同じぐらいの年の娘がいる。だからこそ、ああいう輩が許せねえ」
「誰だって許せませんよ。弁護士を使って警察に駆け込んだら訴えると言って少女を脅したりしてますが、やってることは児童ポルノ製造——弱音を握って卑猥な画像を送らせた最低な野郎だ」
資料を捲りながら苦い顔をすると、青年もそれを覗き込んで、次は『じょふりん』の番だと言った。中年の男は、今どきはあんなガキっぽい顔立ちが流行りなのかとぼやくが、青年がそれをジェンダーレス系と呼ぶらしいと訂正する。
「どっちだっていい。ガキみたいな顔でガキみたいなことをする27歳と、大人っぽい顔で大人の真似事をする14歳。どっちが大人かわからなくなってくる」
「いつの時代だって、同じですよ。大人は子どもを正しい道へ導くためにいる。そうじゃなければ人が老ける意味がない」
そういうと青年は『じょふりん』の待つ取り調べ室に入っていった。
大人とこども 鯨ヶ岬勇士 @Beowulf_Gotaland
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