多種多様な患者との日常模様から、医療機関で働く人々の思いを考える…。

 脳神経外科医の日常を一人称のオムニバス形式で描いた作品。

 医師にとってはごくありふれた日常も、多くの人にとっては非日常。そうして、文字通り人の数だけある様々なお話は、クスッとするものがあったり、感動があったりと、正しく人間ドラマを凝縮したよう。

 一方で、確かな知識と医学的な専門用語を用いながら描かれる診察、手術風景は医療ドラマのワンシーンのように臨場感があって、その様を研修医としてそばで見ているような気分になります。

 そうして、コミカル・シリアス織り交ぜた日常から主人公が得た“学び”や“教え”こそが本作最大の魅力なのだと思います。
 作者様があらすじでも語っているように、本作は過去の作者様自身へ、というスタンスで描かれています。そのため各話には脳神経外科医になった“自分”からの助言が、ときに面白おかしく、ときに真面目に添えられており、ただの日常風景を描く作品にとどめません。
 病気はいつ誰がなってもおかしくない。加えて現在の社会情勢も相まって、ついつい考えさせられます。

 その助言に“押し付けがましさ”を一切感じないのは、やはり、一癖も二癖もある患者さんとのコミカルなやり取り、あるいは、ひょうきんでありながら人に対して真剣な主人公の姿勢があるからでしょうか。どの話も不思議なほどすんなりとオチを受け入れることができ、心地よい読後感がありました。
 特に「人の振り見て我が振り直せ」。改めて、心に刻みます…。

 多種多様な患者を前に、コミカルとシリアスを確かな知識とともに絶妙な加減で織り交ぜる。オムニバス形式という読みやすさと、テーマ性や学びもある作品。軽い気持ちで手にとって見れば、止まらないこと間違いなしです。

 いつ病気になってもおかしくなく、まだまだ先は長そうなコロナ禍もあります。私達のために奮闘する人々の日常や思い、是非、覗いてみませんか?

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