第88話 ハッピーエンド


 学園祭から一年の月日が流れた……



 仲間たちは、それぞれの道を歩き始めていた。



 乙羽野キリトキリちゃんは、学園祭の後 精神的に立ち直る事が出来ず、半年程入院した。

 回復してから高校を中退して、作家になる事を目標に、向ケ丘町を出て大都会へと羽ばたいて行った。



 伊集院継治つぎちゃんは、今も向ケ丘町の自宅に住んでいる。

 プログラマーになる為に、専門学校へ通っている。

『Cafe るしえる』の常連さんだ。



 九条竜之介パパは、腰を悪くしてひとりでペンキ屋さんをする事がきつくなり、今は若い男の子を雇い、二人で仕事をしている。



 関瑠羽太るぅちゃんは、高校を卒業後、珈琲コーヒー修行の為、およそ一年間コロンビアへ旅立って行った。


 二人の未来の為、14000kmの距離を超え、必ず大きくなって帰ってくると約束してくれた。


 九条菜々花ボクは、るぅちゃんに代わりに『Cafe るしえる』でアルバイトを始めた。


 とある日、マスターの濱田さんにある物を手渡された。


「実は、ずっと前に彩希さきちゃんから預かってたんだ。菜々花ちゃんが、いずれ此処ここで働く事になったら渡して欲しいと……」


 ボクは、動悸が激しくなっていた。

 震える手で、綺麗に包装された包みを開封した。

 包みの中には、アイボリーを基調とし、白い天使のデザインが施されたマグカップが入っていた。


 そして1枚のメッセージカードが……


 forever friend


 と、ひと言だけ書かれていた。


 ボクは、マスターの胸を借り複雑な気持ちで涙を流した。




 それからまた月日は流れた……



 菜々花わたしは、今更(?)ながら成長していた。

 身長が8cm近く伸びた。

 髪の毛も肩くらいまで伸ばし、ブラウンにカラーリングしてみた。

 もう、トイレの花子さんとは呼ばせない。


 関瑠羽太るぅちゃんは、『Cafe るしえる』のマスターになり、美味しい珈琲を作っている。


 菜々花わたしも勿論、此処で働いている。


 アルバイトではなく、 菜々花として……。



 とある日、空がオレンジ色に染まった頃……


「る、瑠羽太君、ご馳走様。珈琲お、美味しかったよ。また来るね」


 ウチの常連さんである伊集院継治つぎちゃんが店を出て行った。


「あ、菜々花……悪いけどヤボ用が出来た。ちょっと今から出掛けてくるわ!」


「え?あ、うん分かった。気を付けてね!」


 るぅちゃんが、この時間から出掛ける事は、滅多になく少々不安に襲われた。


 大事な話があるんだけどな……


 私は、お腹を優しく撫でて微笑みかけた。



 店内の掃除を終えた頃、もう外は真っ暗になっていた。


 るぅちゃん……遅いな。


 私は、カウンターに座りオレンジジュースを口にした。


 ピロン♪


 SNSの着信音が鳴り、スマホを開いた。


 るぅちゃんかな……?!


『よっ菜々花!瑠羽太君に報告できた?』


 和泉いずみちゃんからだった。


 今は、向ケ丘でOLさんをしている。つぎちゃんの次に常連さんで、仕事帰りによく寄ってくれる。


 まだ報告出来てない事を返信をすると、大きくため息をついた。


 本当に遅いなぁ……

 まさか事故とか……ないよね?

 いや、不倫とか?


 私は、身体の事もあり少々情緒不安定気味になっていた。


 それからどれくらい経っただろう……


 ちりんっ……と、ドアの鈴の音が鳴った。


「るぅちゃん、おかえ……」



 私は、自分の目を疑った。



 まるで、漆黒のカラスを思わせる不気味なマスク……


 黒のシルクハットを被り、黒装束……


 革の手袋に握られているナイフは、鈍い光を放っている……



「な……なんで?……どうしてDr.が……?」


 私は、カウンターの椅子から崩れ落ちた。


 全身が震え上がり、力が入らない。


 床に尻もちを着き、必死に後退りをした。


 お腹を両手で隠し、奴を見上げた。


「誰?一体……誰なの?」


 Dr.ペストは、首を左右に傾け骨をポキポキと鳴らし、ゆっくりと私に迫ってきた。



「嫌だ……やめて、来ないで……」


 私は、もう……どうにかなりそうだった。


 Dr.ペストは、しゃがみ込み 私の鼻先までに顔を近づけた。


 



「九条菜々花。まさか、自分だけハッピーエンドだと……思ったかい?」






「いやぁぁああああああああ」





 ~end~






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Dr.ペスト~ボク達の青春は殺人鬼に奪われた~ をりあゆうすけ @wollia

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ