葬儀屋の新人社員・誠人は、葬儀の準備を進める中で信じられない事態に見舞われる。その事態とは――
という、強すぎる引きから始まる、初心者さんも謎解きを楽しめる、人の死なない(でもご遺体はある)ミステリーです。
謎解きとお仕事、二つの側面から本当に楽しく読ませていただきました。
お葬式というと一般的に暗く悲しいイメージですが、この作品は明るく、テンポ良く読めますので、その点で心配する必要はありません。キャラの掛け合いも楽しいです。
探偵役となる誠人は仕事的にも性格的にもなんだか頼りない……そんな彼が推理をするからこそ、読者もツッコミを入れたり、遠慮のない意見を持ったり。一緒になって自由に思考を巡らせることができます。
これがデキる探偵だったら、読者の考えを挟む余地を感じられず、真実が導き出される様子をただ眺めているだけになっていたかもしれないと思うのです。
推理のためのヒントは色々なところに、時には仄めかすように散りばめられています。それらには自然と興味を引かれますし、気づけば頭の中に自分の推理を描いていることでしょう。
推理には葬儀業界ならではのお仕事知識もしっかり関わってきます。
葬儀屋や、葬儀に関わるその他のお仕事について知ることができるのも、こちらの作品の大きな魅力です。
その仕事内容や精神に触れたとき、胸の中に敬意や感謝が溢れました。
明るく読めて、ジンと来るところもあり、推理とお仕事への好奇心も満たされる。ネタバレはできませんので、詳しいことはぜひぜひ実際に読んで感じていただきたいです!
葬儀屋で働く新人・宮田誠人は、あるとき遺影の人物と棺の中の人物が別人であることに気づく。まさか、遺体が取り違えられた…!?
めっちゃ面白かったです!葬儀の裏側がわかりやすく書かれていて、お仕事作品としてとても魅力的。加えて、どうやって遺体が取り替えられたのか、誠人が一生懸命推理していき、ミステリ好きも存分に楽しめる物語になっています。
誠人が上司の音喜多佐和子に推理を述べていくシーンでは単調になりそうでしたが、詰めが甘い誠人の考えを、一刀両断していく佐和子との掛け合いが楽しくて、どんどん読み進められます。
素直で真面目な誠人、葬儀屋という仕事に対して誇りを持った佐和子。すごく素敵なキャラクターたちです。とっても面白いのでぜひ読んでみてください!
お仕事小説の魅力はなんといっても、その業界や職場で働いてみたいと思わせてくるほどの憧れを抱かせてくれる事です。
佐和子さんの仕事と職業倫理は、読んでいて素直にすごい人だなと思えるものでした。それゆえに働き出すまでの怠惰状態てですと好感度は下がり続けるのかもしれません。でも、間違いなく7話で上がります。ここは保証いたします。
葬儀社員の矜持と日常をたっぷり堪能できるお仕事小説です。
今作のもう一つの顔であるミステリについても述べさせていただきます。
今作の謎を解く手がかりは全て提示された状態で謎解きが進んでいきます。それゆえに謎を自力で解くことが出来ます。読者に対して限りなくフェアな構成となっています。
そして解決編では一つ一つ、丁寧に全ての謎の解説があり、ストンと腑に落ちる事でしょう。
そう、全ての謎、疑問が解決されます。喉に刺さった小骨のような小さな謎である花屋さんの名前まで。
終章の告別式ではまさに雰囲気に飲まれるという表現がぴったりと当てはまります。読んでいる時に告別式の厳かや空気がありました。そのせいか読了後、他の方々の応援コメントを読むとどこかかしこまっているように感じました。
日常だけどご遺体がある、知らない業界のミステリー
どうぞ、お読みください。
葬儀屋で働く新人の宮田誠人は、粛々とした葬式の場には少し似つかわしくないほど感受性が豊だ。だが、それが彼の魅力でもある。そんな誠人の先輩、音喜多佐和子はクールでちょっぴり怠惰。就業中に映画を見たり羊羹を食べたり。でも、ぐうたらと見せかけて仕事には真摯だ。故人や遺族に対して真っ当に向き合い、この仕事を心から誇っているように思う。そんな二人が迷探偵(?)バディとなって、火葬前に取り違えられたご遺体を探す葬儀屋ミステリー作品である。
あまり多くを語るとネタバレになってしまうのがミステリー作品のレビューが難しいところ。とにかく「読んでくれ」としか言いようがない。読んで絶対に損はしない良質なミステリーであることは読んだ私が胸を張ってお伝えしたい。
殺人事件とか建物の爆破とか、そういった派手な要素はない。なぜなら事件に巻き込まれたのは既に故人だから。そして主要の二人は警察でも探偵でもなく葬儀屋だから。
葬儀業界のあるあるや通例など、普段垣間見ることができない裏側を覗き見ることができるのも本作の見どころ。誠人の突飛な妄想力と佐和子の冷静な着眼点、そして葬儀屋の仕事を通じて事件を解決に導きます。
このミステリーの落としどころを、ぜひあなたの目で確かめていただきたい。そして人の別れに寄り添う彼らのことを、少しでも知ってほしい。
お葬式って非日常だ。
その非日常に非常事態が積み重なったら、パニックになるよ!
……という、葬儀社の新人・マコくんの嘆き節と問題解決の努力に共感待ったなし。
正直、謎解きよりも、「葬儀社さん」のビジネスを見てほしいと私は思っています。
人の死という『非日常』に接する仕事でありながら、目の前の人間関係に悩んだり、ミス防止策を講じたり、演じなきゃいけなかったり、ビジネスパーソンなら『あるある!』と感じるシーンがそこかしこにあるんです。
仕事に誇りを持つ姿に、明日からも仕事がんばろ、というエネルギーを頂いてしまった。
今日の仕事に倦みかけた方、気持ちを変えるために、是非どうぞ。
葬儀社を舞台として起きる、ご遺体が入れ替わった謎を解くミステリー。作者の経験がいかんなく発揮され、葬儀を執り行うまでの裏側が丁寧に描かれている。
話は入り組んでいるように見えるかもしれないが、きちんと答えが提示されていくので難解ということはない。むしろ解決編はかなり丁寧で、前に起きたことを思い出しやすい描かれ方をしている。
人間には先入観というものがある、想像力がある。誰かが夜道で転がる白いビニール袋を幽霊だと悲鳴を上げた時、隣でそれを聞いた人も幽霊がいたと思い込むように。
そんな先入観や盲点をうまく扱い、事件の発生から解決へと導いている。
主人公は名探偵ではない。けれど一生懸命で、応援をして一緒に考えようという気持ちになる。彼が走り回り、考え、読者と共に驚いてくれる。
ぜひとも読んでいただきたい一作です。