実にスムースな本格ファンタジー作品、ラノベ卒業者にオススメ!
- ★★★ Excellent!!!
読者諸兄姉の諸君、呑兵衛の時間だ。
私はウヰスキーを少々嗜むのだが、全くのウヰスキー初心者には〖ノンピートウヰスキー〗を勧めている。
〖ピート〗とは泥炭の事で、ウヰスキーの香り付けに使われる物だ。
この〖ピート〗の御蔭でウヰスキーにスモーキーな風味が付くのであるが、この〖ピート香〗を苦手とする御仁も多い。
そのような御仁に御勧めするのが、〖ピート〗を使っていない〖ノンピートウヰスキー〗なのである。
前置きが長くなってしまったが、これより作品紹介に移ろう。
本作は剣と魔法の本格王道ファンタジー作品である。
どの辺りが本格なのかと云うと、作中世界の地理、構造は勿論、時間、暦、長尺などの単位、魔法理論まで精緻に作り込まれている事だ。
ここ迄でも、ラノベに蔓延する〖ナーロッパ〗とは段違いだと気付かされる。
その中でも特筆すべき事柄が、作中に登場する『精霊語』・『古代精霊語』などだ。
作者に問い合わせて見た所、モデル言語無しの完全オリジナルと云う事である。
通常、ファンタジー作品の魔法言語には基となる言語が存在するのが常だ。
当たり前である。
言語を新たに設定する事とは、音、意味、文法、その他全てを創造しなければならないからだ。
普通の作者はそこまでの労力を割かないだろう。
この点において今作は、〖ナーロッパファンタジー〗の範疇を軽々と飛び越えている。
では文体はどうか。
これが非常に「クセ」が無く流暢である。
重厚な言葉遣いなのに流暢なのである。
多くの場合、言葉遣いが重厚だと文章が頭に入って来づらいが、その心配は無い。
「クセ」が無いからだ。
私を含め小説執筆者の一部は、自身の文章力の乏しさを「クセ」を使って誤魔化す嫌いがある。
「クセ」は良い方向に向かうと文章を個性的に彩るが、悪い方向に向くと文章を陳腐にさせる諸刃の剣だ。
擬音語・擬声語、絵文字、不必要な和製英語、歪な改行、約物の多用などがそれにあたる。
今作はどうなのか。
私が拝読した時点では、それらが一切登場していない。
これは驚くべき事態である。
確かに、擬音語・擬声語、絵文字は、執筆スタイルにより全く登場しない作品も珍しくは無い。
しかし和製英語と約物は違う。
今私が『執筆スタイル』と使ってしまった様に、和製英語は日本語文章に深く定着している為、使わない事そのものが困難なのではないだろうか。
その最たるものが約物である。
私含め多くの小説執筆者は「!」や「?」などの感嘆符・疑問符を使いがちである。
それは単純に、読者の感情を簡単に揺す振れるからだ。
繰り返すが、今作にはそれらすら無い。
前述した事から鑑みれば、作者の今作に対する並々ならぬ真摯な姿勢と潔さが垣間見えるだろう。
『王道ファンタジーは王道の筆で綴られる』この言葉が似あう数少ない作品である事を、私が保証する。
──────────────────袋とじ───────────────────
読者諸兄姉の諸君、ここからは紳士の時間だ。
先ず貴方方に問いたい。
〖双丘〗、と云う言葉を御存じだろうか。
今作には十代の女性キャラクターが登場するのだが、作者はそのキャラクターの〖双丘〗を【双弓】、と表現したのである。
私は誤字ではないかと作者に問い合わせてみたが、違った。
作者の純粋な「表現」だったのである。
十代の女性! ピンと張り詰めた‼ 重力に抗う⁉
私にとってその表現はまさに青天の霹靂、震天動地、驚天動地、吃驚仰天であった。
私の感性が【双弓】と云う表現に完全敗北、無条件降伏した事をここに記す……。
あー、レビュー執筆でも結局約物使っちゃったな。
それに何か忘れてる気が……。
あっ!〖ノンピートウヰスキー〗でレビュー纏めるの忘れた!